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なぜロナウドには背番号7が似合うのか?王の孤独。

小宮良之スポーツライター・小説家
マドリーの背番号7を背負い、ゴールを狙うクリスティアーノ・ロナウド(写真:ロイター/アフロ)

2016年9月14日の欧州チャンピオンズリーグ、スポルティング・リスボン戦。レアル・マドリーのクリスティアーノ・ロナウドは試合勘の鈍りによるものか、とことん精彩を欠いていた。チームは0-1でリードを許す展開。しかし残り1分でファウルでFKを得ると、自ら右足で右上に放り込んで同点に追いついた。それを口火にアディショナルタイムでアルバロ・モラタの逆転勝利弾も決まったのである。

『こんな甘っちょろい戦いをしていると、今に顔に泥を塗られるぞ』

C・ロナウドは傲然と言い放ち、むしろ勝ち方に不満げだった。

上昇志向の化身というべきか――。先日、C・ロナウドは、シャビ・エルナンデスの「ロナウドはリオネル・メッシという歴史上最高の選手と同じ時代に生まれてしまった」という発言に不快感を露わにしている。

「ネットで一番検索されるのはおれの名前だ。だから、目立ちたい奴はおれの名前を出すのさ。シャビはカタールでプレーしているんだっけ?よく知らないね。バロンドール(世界最優秀選手賞)もとっていない選手だろ」

C・ロナウドは歯に衣着せない。世界一であることを目指し、そうであることを活力にする選手だけに、名誉を傷つけられると過敏に反応する。

<大人げない>

そう捉える人は多いかもしれないが、その意地こそがポルトガル人プレーヤーの実力を高めてきた。

王であれ、道化であれ。

背番号7の資格

C・ロナウドは好悪がわかれるスター選手だろう。

その得点能力は次元を超えている。例えば、跳躍からのヘディングには大鷲が空中で獲物を捕らえる雄壮さを思わせ、見とれるほどに美しい。ここ一番で、ボールをネットに叩き込む胆力もある。重圧に気持ちが軋むことがない。一方で、ゴールを祝するパフォーマンスでやたらと鍛え上げた肉体を見せようとしたり、ポップスターかモデルのように振る舞う姿に、不快なナルシズムも感じさせる。

スペイン語で言う「VANIDAD」(虚栄心)が人々を白けさせることもあるだろう。

では、彼は単なるキザ野郎で、鼻持ちならない男なのか。

そのありあまる虚栄心こそ、彼らを一流にしているとも解釈できる。

「レアル・マドリーのエースナンバー7を背負うには、ふてぶてしいくらいでないと、成功しない」

それは一つの不文律として語られる。

80年代に背番号7を背負ったファニートも、伝説的名言を残している。87年、インテルとの欧州カップ戦に大差で敗れた後、本拠地でのリターンマッチを前に「ベルナベウの90分が長いぞ。覚悟しろよ」と不敵に布告し、見事に逆転した。マドリーの選手であることのプライドが表出した果たし合いだった。

同じく背番号7の代名詞の一人、ラウール・ゴンサレスも"鼻持ちならないスター"と嫌われる側面があった。

例えば、遠征のバスが出発する前に、一人じっくりとマッサージを受ける。チームメイトを長らく待たせても謝りもせず、何食わぬ顔で席に着く。当然、反発も受ける。しかしピッチに立ったナンバー7は誰よりも献身的にボールを追い、ゴールチャンスを決して逃さなかった。

ラウールは他の選手を長々と待たせても、身体をケアし、準備することで貴重な得点を決めてきた。その気概こそ、瞠目に値する。なぜなら、それだけ自己中心的行動をした上で、もし試合でゴールを外しまくり、ピッチでなんの貢献もできなかったら、集中砲火を浴びる。男はその失敗を恐れなかった。むしろ逆境に身を置くことで、理屈を超えるようなプレーを見せた。ゴールに狂喜するナンバー7は、毒々しいほどに美しかった。

C・ロナウドもマドリーの7番の系譜を受け継いでいる。うぬぼれが強い、と批判されるが、プレーヤーとしての矜持は格別である。

「ロナウドのプロフェッショナリズムは信じられないレベルにある。誤解されるかもしれないけどね。芸能界の仕事のことなど、彼にとっては些末なことでしかない」

マドリーを率いたカルロ・アンチェロッティ監督は、ロナウドのプロ精神についてこう述べている。

「(身体のケアのためには)たとえ真夜中の3時でも、練習場で氷風呂につかっている男だよ。たとえ自宅で、熱愛中の恋人が待っていたとしてもね。それに、お金のことなんか、ほとんど興味はない。彼が興味があるのは、"サッカー選手として1番であること"。どんなときも、それだけなんだよ」

最近のC・ロナウドは、体力的な衰えが囁かれる。これまでは無事是名馬で怪我がほとんどなかったが、ベストコンディションで戦える試合が目に見えて減った。もはや、これまで通りにはいかないだろう。

しかし、覇道を究めるような生き方だからこそ、非論理的な成功もつかみ取ってきた。EURO2016での優勝もその一つだろう。怪我に悩まされながらも、チームを高みに導いている。英雄は、最後の最後まで意地を張り続けるはずだ。

『おれは誰にも負けない。一番になる。お前ら下手くそとは違うんだ』

C・ロナウドは試合に負けた後、チームメイトに向かって吐き捨てたという。筆者はマデイラ島でそのルーツを取材したとき、言葉を失った。少年にして、そこまで強い野心を味方にも出す。当然、周囲からは鼻白まれた。しかし彼がなりたいのは、勝者であり、一番だけだった。

王は生まれたときから、王だったのかもしれない。

余人には理解できぬであろう孤高の虚栄心に、背番号7の真髄はあるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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