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対コロンビア、日本に勝機なし!?一縷の望みとは。

小宮良之スポーツライター・小説家
ナイジェリア戦で大量5失点を喫した日本。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

コロンビアサッカーの台頭は目覚ましい。

ハメス・ロドリゲス(スペイン、レアル・マドリー)を筆頭に、ラダメル・ファルカオ(フランス、モナコ)、ファン・クアドラード(イングランド、チェルシー)、カルロス・バッカ(イタリア、ACミラン)、ファン・キンテーロ(ポルトガル、FCポルト)など世界各国に有力選手が散らばっている。今や「コロンビア銘柄」は、アルゼンチン、ブラジルに迫る勢いがある。

その理由は、育成年代の充実が挙げられるだろう。相応して国内リーグも活発化。南米王者を決めるリベルタドーレス杯は、同国のアトレティコ・ナシオナルが頂点に立ったばかりだ。

リオ五輪のコロンビアはフルメンバーには程遠く、盤石ではない。4-4-2で挑んだ開幕のスウェーデン戦も、押され気味だった。ウィルマル・バリオス、セバスティアン・ペレスのボランチはポジションを動かされ混乱。受け身に立った。しかしカウンターの精度は折り紙付き。オーバーエイジ枠(OA)のドルラン・パボン、テオフィロ・グティエレスは二人で切り崩すことができ、開幕戦も連係で先制点を奪った。次世代の背番号10,アンドレス・ロアも一瞬で試合を決める力を持つ。

客観的に見て、日本の勝ち目は薄い。J1で定位置をつかんでいる選手はまだしも、試合経験が乏しい選手が太刀打ちできないのは自明の理だろう。

日本五輪代表の実情とはいかなるものか?

手倉森誠監督は子飼いの選手を好み、所属クラブでプレーしていようと、していなかろうと、ほぼメンバーを固定してきた。結果、結束は強くなった。アジアの戦いをくぐり抜けられたのは一つの成果だろう。

しかしそんな狭量な戦い方は、リオ五輪本大会では打ち砕かれた。コンディションは最悪、組織力も欠いたナイジェリアに歯が立たなかった。

<個の力の非力さ>

それが敗因と特定されるが、それは「日本人選手は非力」ということなのか?

率直に言って、今回選ばれたメンバー以上にコンスタントに高いレベルでプレーする選手たちはいる。しかしメンバー外だった。

例えば橋本拳人(FC東京)はスタメンに定着。右SB、右サイドハーフ、ボランチ、左FWまで担当し、ユーティリティ性を証明していた。「外国人選手と戦う」という触媒によって、日本人離れした「攻守にダイナミズムを感じさせる選手」になれるはずだった。他にも鎌田大地(サガン鳥栖)、奈良竜樹(川崎フロンターレ)、関根貴大(浦和レッズ)、富樫敬真(横浜F・マリノス)、中谷進之介(柏レイソル)らは伸びしろを持っていた。

「試しに呼んでも力を出し切れなかった」

J1で定位置をつかみながら落選した選手たちについて、筆者が代表関係者に訊ねると、そんな答えが返ってきた。正論のように聞こえなくもない。しかし、選手の能力が足らなかったのか、用いる監督の能力が足らなかったのか?

例えば浦和レッズの関根貴大は、クラブで特殊なシステムでプレーする。簡単に五輪代表にフィットするはずはない。しかし首位を争うチームで定位置を得ているわけで、その力を組織に組み込むべきだった。選手の個の力が大きいほど、実は集団の中では浮いてしまう。逆に力のない選手は組織に依存し、馴染みやすいが、決戦では役に立たない。相手にダメージを与えられる"暴れ馬"を、どう走らせるか。それが指揮官の仕事だろう。

スカウティング、起用法に根源的な問題はなかったか?

「守備がまずかった」という分析だが、J1で満足に出ていない左FW、左インサイドハーフが脆いのは当然だった。ナイジェリア戦で5失点したGKの櫛引政敏は今シーズン、リーグ戦は出場なし。試合勘の欠如は明らかだった。キックの精度の低さは頭を抱えるほどで、チームに不安を与えていた。中村航輔が柏レイソルで試合経験を積み、直前のブラジル戦も明らかな差を示していただけに、"監督と同郷だから?""占いで決めたの?"と勘繰るほど目を疑う起用だった。また、OAも国際大会の出場経験があるわけでなく、リーダーとしては完全な力不足を露呈した。

では、コロンビアに勝てる見込みはゼロか?

まず、勝負事にゼロはない。GKに中村を使って防御力を高め、戦い慣れた4-4-2に戻す。このチームは、ナイジェリア戦のような4-3-3という高度なシステムに対応できる力はない。注目したいのは室屋成。技術的戦術的に未熟だが、集中力が高く闘争心も豊富で、試合中に間合いやタイミングで成長を見せ、「奇貨居くべし」(故事成語で、珍しい品物は買っておけば、あとで大きな利益をあげる材料になる)か。そして大島僚太、南野拓実で結ぶ攻撃ラインは世界に伍すだけに、二人を生かしつつ、危険を最小限に収める陣容を組む。いくつかのポジションは明らかに人材が足りないが――。

コロンビアは絶対的な強さを誇るチームではない。ナイジェリアよりも少し上といったところか。コンディション次第で、波がある。五輪年代の選手はバイオリズムが激しく動き、安定感に欠ける。試合序盤で流れを失うと、取り戻す老練さがないのも特徴である。

もし日本が機先を制することができれば――。わずかな可能性が生まれる。多少無理しても最初の10分間に力を注ぎ込み、流れをつかむべきだろう。先制攻撃が唯一の勝機となる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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