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Jリーグ王者のサッカーは世界で戦えるか?クラブW杯開幕戦は2-0で辛勝も・・・

小宮良之スポーツライター・小説家
Jリーグ王者のサンフレッチェ広島の意気は上がるが・・・。(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

2015年12月10日、クラブワールドカップ開幕戦が新横浜国際総合競技場で行われた。(開催国)Jリーグ王者のサンフレッチェ広島がオセアニア王者のオークランド・シティと戦い、皆川佑介、塩谷司が得点して2-0で辛勝。チャンピオンシップ(CS)の疲れを考慮して主力数人を休ませながら、確実な勝利収めている。しかし、格下相手にブロックを作って守るというリアクションサッカーで、ボール支配率では大きく下回った。得点も相手GKの拙守に助けられた感も強く、冷たい雨が降る中、試合展開は物足りなさを残した。

もっとも、広島の真価はこれからだろう。Jリーグのプレー水準が世界で通用するのか? その証明が求められる。

広島サッカーは世界に通用するか?

Jリーグを支配しているのは、王者であるサンフレッチェ広島のサッカーと言えるだろう。4年間で3度の年間優勝と実績は申し分ない。さらに年間順位2位の浦和レッズも戦術的には広島の傍系、もしくは本家と言える(浦和を率いるのはかつて広島を指導したミハイロ・ペトロビッチ)。今シーズンのJリーグ優秀選手32名には広島から7名、浦和から5名が選出され、Jリーグを代表する存在と言える。

そもそも、広島の戦術システムとはいかなるものか。

基本的には3バックながら、守るときは両サイドの選手が下がって5バックで"要塞を築き"、攻め入るスペースを消す。攻めるときはボランチ一枚が最終ラインに入って、両サイドの選手がウィングのように前に押し出て、サイドアタックの分厚さでゴールまで持ち込む。切り替えの意識が徹底されており、一本のロングパスで鋭いカウンターを放てるのも特長だろう。前線やサイドにはスプリント力のある選手を擁する。

「やりにくい」

Jリーグのチームは、率直な感想を口にしている。とりわけ、広島の堅牢さはうんざりするほどだという(浦和の方が守備にイノセントな性質を持っている)。この点、森保一監督のマネジメントは特筆に値する。

しかし広島も浦和も、アジアチャンピオンズリーグでは一敗地にまみれている。Jリーグでは出ないシステムの不具合が出てしまう。要塞戦術と切り替えの速さ、というJリーグを席巻する戦い方が通用しない。

アジアのクラブは、たとえ中央が数的不利でも球足が速く強いクロスを放り込み、大柄なCFが果敢に飛び込む。日本人CBは非論理的な強引な攻めに不慣れで、ポジションを取りつつも対応に四苦八苦。しかも、1トップに対して3人で対応せざるを得ない数学的ミスマッチで、どうしても中盤で人が足りず、遠目から強烈なシュートを打ち込まれるなど型を破られてしまう。

CSファイナルでガンバ大阪が広島戦において、高さも強さもある長沢駿の1トップで挑み、中盤の選手を多く配置したのは理にかなっていた。長澤が広島のラインを押し下げることで、中盤の選手は躍動。戦略的には優勢に試合を進めた(軽率な退場劇やリスタートがなければ・・・)。余談だが、浦和がサガン鳥栖と相性が悪いのも、豊田陽平という大型CFを旗頭とするKリーグ的戦法を苦手とするからだろう。

広島や浦和から代表主力に定着する選手が少ない理由は、戦術システムが特殊というのは一つだが、「世界を舞台にした場合は厳しい」と判断されているのだろう。ただ一方、「Jリーグで最も結果を残している両チームの戦い方こそ、最も日本人に合っている」という仮説も成り立つ。

日本人は体格的問題から、プレー強度の高さとボールプレー技術を兼備するようなCBをほとんど輩出できていない。様々な仕事をお互い補完しあえる3バックにすることで、それぞれの短所を消し、長所を出すという面では論理的と言える。また、日本はSBが過剰に攻撃を求められることで、まともに守りが鍛えられておらず、適任者が少ない。その一方で、広島や浦和が好むウィングバックタイプは豊富にいるのだ。

前線も、小柄なFW佐藤寿人はJリーグ史上最多得点を記録しているように、余すところなくその能力を発揮している。彼はラインを破る天才であり、俊敏性に優れ、また周りと強調する能力に長ける。センターバックを引き連れ、ドゥグラスのようなシャドーFWを好スペースに引き入れられるのだ。

カウンターに入ったときの青山敏弘、森崎和幸の裏への一本のパスは絶妙。また、押し込んでしまえばサイドから攻め立て、質の高いクロスを送れる。じっくり拵えた規律と秩序は、自律や自由を苦手とする日本人選手にとって、最適だったのかもしれない。

Jリーグをリードしているサッカーの精度を上げていくべきか?

あるいは、それに変わるシステムやそれを動かす選手の台頭があるのか? 

クラブW杯での広島の動向は、日本サッカー全体のデザインの一つを示す上で一つの答えを持っているに違いない。

12月13日、広島は大阪長居スタジアムでアフリカ王者、TPマセンベと準々決勝を戦う。そこで勝った場合、16日には南米王者、リーベル・プレートとの一戦を迎える。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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