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なぜ、岡崎慎司はストライカーとして進化できるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

ウズベキスタン戦は、ドイツで得点を重ねる岡崎慎司の面目躍如だった。

左サイドの太田宏介からのクロス、ファーポストでマークを外していた岡崎は、ダイビングヘッドでゴールに叩き込んでいる。彼はそれまで、DFを攪乱する動きを繰り返しながらボールを受ける態勢を作り、実際にパスを引き出し、起点となり、シュートまでも持ち込んでいた。ゴールは当然の帰結だったと言える。

しかし彼の真骨頂は、柴崎岳が記録した3点目にあったかもしれない。

ハーフラインで柴崎がGKの頭上を抜くロングループシュートを打った後、それを追いかける岡崎の背後には、ディフェンダーが迫っており、自らが押し込むことが一番確実な判断だった。ゴールゲッターとしては責められる行動でもない。しかし彼はルーキー選手に花を持たせた。勇ある者は余りある仁の心を持つ。それは武士道において惻隠の情とも言われるが、強者の余裕があるからこそ人をいたわり、優しくなれるのだ。

岡崎は即座にその決断を下せる。本人には迷いがあったとしても、その迷いは見えない。行動の確信。その点、プレーヤーとしての岡崎は異端だろう。

かつて岡崎とのインタビュー、こんな質問を投げかけたことがある。

-岡崎という選手をキャプテン翼のキャラクターにたとえると?

彼は実直に答えてくれた。

「葵新伍です」

小柄だがスピードと豊富なスタミナを武器に得点を狙い、フィールドを駈けまわる。プレーに熱が入りすぎる欠点はあるが、明朗な性格の持ち主で人を疑うことを知らない。葵というのはそんなキャラクターだ。

なるほど、岡崎と酷似している。彼は自分のイメージをしっかり捉え、それを具現化していた。そして驚嘆すべきは、彼がそうした成功者となりながら、周囲と壁を作るナルシズムを持たず、「挫折を糧に成長した」という自己陶酔をまるで感じさせない人間だということだった。岡崎は自分を極めて冷静に客観視して捉えらることができた。苦労話を決して自慢気に語らない。成功体験を語るの彼は、どちらかと言えば照れ臭そうに見えた。

無心。

それは岡崎の進化の源泉だろう。周囲がどのように自分の実力を測り、捉えるかは関係ない。己の道を迷わず行き、ボールを蹴り続ける。結果、体は雑念に囚われることなく自然に動くようになった。考えずにプレーできるところまで、彼は肉体の動きを高めたのである。

チュニジア戦の先制点も、それが当てはまる。

長谷部誠の速い縦パスをくさびで受けた岡崎は、それを叩いてから右サイドを懸け上がっている。左サイドに出たボールを、本田圭佑が苦しい態勢からクロスを折り返そうとしたときだ。自分の前のスペースを上手く空けつつ、適切なタイミングでそこに入った。ヘディングはおでこに合わせ、枠を狙う基本形だったが、特筆すべきは巨漢DFが目に入っていたにもかかわらず、なんの戸惑いもなく、正確にシュートを打ち込んでいる点だろう。

岡崎は、どこにいればボールが入ってくるのか、それを心得ており、受けた後の判断も優れている。一連のプレーは淀みがなく、オートマチズムさえ感じさせる。強烈な確信があるのだろう。得点シーンの直前、本田からファーポストに入ったボールを、岡崎はファーストコントロールをミスし、シュート機会を逸している。しかしそのミスによる焦りや気負いはなにも見られなかった。

驚嘆すべき心の持ちようで、彼はそれによって技術を持っているだけでなく、出し切ることができるのだ。

「オカちゃんはドイツに渡ってから驚くほど上手くなった」

そう言われるが、岡崎のプレー革新は目覚ましい。裏に抜ける走り込みは昔からセールスポイントだったが、それは特長の一つでしかなくなった。中盤でボールを受け、パス回しを潤滑にするなど組み立てにも参加。自らドリブルで仕掛けから威力のあるミドルシュートを打つ場面も増えている。無心であるが故に、ピッチで必要とされる動きに体が呼応し、適応することでさらなる上達ができるのだ。

「ピッチの上では考えてしまうと、一歩が遅れてしまう。だから、何も考えずにボールがくることを信じてがむしゃらに動いていますね。自分は下手くそだから、とにかくゴールに向かって突っ込もうと。それで体のどこにボールが当ってもいいから、ゴールネットを揺らす。それが自分の仕事なんです」

そう語っていた岡崎のストライカーとしての到達点は、まだ先にある。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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