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夏休み直前! 子どもを犯罪から守るために必要な5つのポイント

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(提供:イメージマート)

それでなくても警戒心が薄まる夏休み。事件に巻き込まれたら、せっかくの夏休みが台無しだ。子どもを守るのは親の役目。悲劇を回避するためにチェックすべき意外なポイントを解説する。

1 「人が多い場所」が危険

子どもを狙った犯罪者が現れるのは、子どもがいそうな場所である。したがって、人通りの少ない道よりも、人通りの多い道の方が危険だ。

実際、4 人の子どもを誘拐・殺害した宮﨑勤も、学校周辺や団地、つまり子どもがたくさんがいそうな場所に出没していた(1988 年~1989 年の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件)。

その意味で、海水浴やキャンプ、夏祭りや花火大会など、「子どもが集まる場所」は、それ自体で子どもを狙った犯罪者を引きつける。

たとえ人通りのない道が事件現場になった場合でも、そのほとんどが、人通りのある道で犯罪が始まっている。つまり犯人は、人通りのない道で待ち伏せしていたのではなく、人通りのある道から尾行していたのだ。

もっとも、その道を大人が歩いていれば、犯罪者は子どもに近づけない。しかし、人通りはやがて途切れる。そのタイミングを犯罪者は狙っている。

チャンスが訪れるまでは、善良な市民として振る舞えばいいだけのことだ。

人通りのある場所だけに、そこにいても周囲が違和感を覚えることもない。「電信柱の陰に怪しい男が」といったことはまずない。犯罪者は、自然に堂々と振る舞っているのだ。

人が多い場所では、親は「だれかがうちの子を見てくれている」と思いがち。しかし実際は、だれも「うちの子」を見てはいない。そこにいる人の注意や関心が分散しているからだ。

「うちの子」にスポットライトを当てるのは親だけなのである。

2 「みんなの公園」「だれでもトイレ」は危険

子どもを狙った犯罪者は公園が大好きだ。子どもがたくさんがいそうだからだ。

そのため、海外では、公園を造る場合、公園を悪用する人は必ずいるという前提で、子どもをだますことが難しくなるような工夫を凝らしている。

例えば、広々とした公園でも、遊具は1カ所に集め、そこをフェンスで囲っている。つまり、公園内を子ども用のスペースと大人用のスペースに区分し、互いに入りにくい状況を作っているわけだ。こうした手法は、ゾーニング(すみ分け)と呼ばれている。

フェンスで仕切られた遊び場では、子ども専用のスペースに入るだけで、子どもも周りの大人も警戒するので、連れ出すことは難しい。

公衆トイレについても、海外では、男性用と女性用を左右にかなり離したり、建物の表側と裏側に設けたりして、犯罪者が異性を連れ込みにくい状況を作っている。

障害者用個室も、男女それぞれのトイレの中にあるのが普通だ。

ところが日本では、すべてのスペースがあらゆる人に開放され、遊具も集中することなく点在している。そのため、大人と子どもが入り交じって公園を利用している。

そこでは、子どもの目の前に大人がいても、周囲が違和感を覚えることはない。

子どもが大人と話していても、不自然に感じる第三者はいない。そこに犯罪者が付け入るスキがあるのだ。

公衆トイレについても、ゾーニングの発想が乏しい日本では、男女の別のない障害者用トイレが多い。そうした場所は、犯罪の温床になりかねない。

3 防犯ブザーで防げる犯罪は2割以下

警察庁の「子どもを対象とする略取誘拐事案の発生状況の概要」を用いて、小学生以下の連れ去り事案を推計すると、実に子どもの8割が、だまされて自分からついていったことになる。

確かに、宮﨑勤事件も、サカキバラ事件も、奈良女児誘拐殺害事件も、だまして連れ去ったケースだ。犯人にだまされてついていく子どもは、防犯ブザーを鳴らそうとは思わない。

突然襲われる2割のケースでも、子どもは恐怖で体が固まってしまい、防犯ブザーを鳴らせない可能性が高い。実際、「怖くてブザーを鳴らせなかった」と報道されたこともある。

ニューヨーク大学のジョゼフ・ルドゥー教授によると、恐怖は思考よりも早く条件反射的に起こるという。とすれば、防犯ブザーを鳴らそうと思う前に、頭が真っ白になり、思わずすくんでしまうはずだ。

仮に、防犯ブザーを鳴らせたとしても、山道や農道では、警報音が周囲の大人に届かないだろう。逆に都市部では、自動車や工事の音で警報音が聞こえないかもしれない。警報音が聞こえたとしても、ふざけているだけだと思って助けに来ない可能性も高い。

さらに怖いのは、防犯ブザーを鳴らしたために、犯罪者が逆上したりパニックになったりして凶行に及ぶことだ。

実際、子どもがビルの屋上から突き落とされた長崎男児誘拐殺害事件(2003年)でも、抵抗された犯人がパニックになり、発作的に投げ落としている。

4 子ども狙いの犯罪者は、防犯カメラを恐れない

防犯カメラには防犯効果があると言われているのは、犯罪が発覚したときにカメラの録画映像に基づいて簡単に逮捕されてしまうからだ。確かに、犯行が発覚するかもしれないとビクビクしている犯罪者なら、防犯カメラを恐れるだろう。

しかし、子どもを狙う性犯罪者の多くは、犯行は発覚しないと信じ切っている。相手が子どもなら最後までだまし通せると思っているからだ。

性的行為を犯すものの、性犯罪だと感づかれない程度にとどめ、子どもが被害に気づく前に解放するつもりでいる。

実際、東京と神奈川で「ハムスターを見せてあげる」などと声をかけて、女児を団地の階段に誘い込んでは、「虫歯を見てあげる」と言って口を開けさせ、舌をなめていた事件があった(2006年)。

この犯人は、この手口で 50 回、犯行を続けていた。

こうした犯罪者は、自分の顔が防犯カメラに捕らえられても、犯罪が発覚しない以上、防犯カメラの録画映像が見られることはないと安心している。

熊本市のスーパーマーケットのトイレで女児が殺害された事件(2011 年)でも、犯人は、10台の防犯カメラがある店で、4時間もの間、堂々と女児を物色していた。犯行は発覚しないと思っていたからに違いない。しかし、トイレまで子どもを捜しに来られたので、慌てふためき、殺人へと至ったのである。

5 親子の「景色解読力」が防犯の基本

子どもの事件で、だまされたケースが後を絶たないのは、安全と危険を「人」を見て判断するように教えているからだ。

「不審者に気をつけろ」「知らない人にはついていくな」と繰り返し子どもに教え、子どもを「人」に注目させている。しかし、犯罪者とそうでない人を、見た目で区別するのは不可能に近い。

「知らない人」と言っても、子どもの世界では、知らない人と道端で二言三言、言葉を交わすだけで、知っている人になってしまう。

千葉県松戸市のベトナム国籍の女児が殺害された事件(2017 年)では、通学路の見守りに立っていた保護者会会長という「知っている人」が犯人だった。

子どもがだまされないためには、だまさないものを見るしかない。それは、景色である。人はウソをつくが、景色はウソをつかない。要するに、安全と危険は、「景色」を見て判断すべきなのである。

犯罪が起きやすい景色は「入りやすく見えにくい場所」だ。この「ものさし」を使って景色を解読すること(景色解読力の向上)が、防犯に最も必要なことである。

夏休みの間に、ぜひ親子で「入りやすく見えにくい場所」の具体例を学んで、「景色解読力」を高めてほしい。

リアルな世界(通学路などの生活圏)とバーチャルな世界(インターネットやSNS)の「入りやすく見えにくい場所」について、次のアニメーションで詳しく解説している。

*ご近所の危険と安全は、こうして見分ける↓

*SNSの危険と安全は、こうして見分ける↓

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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