「虫歯を見てあげる」親切な言葉からの性犯罪 巧妙になる「だまし」による子どもの犯罪被害、どう防ぐ

(写真:アフロ)

新年度が始まり、子どもの行動範囲が広がる時期を迎える。保護者にとっては、子どもの成長を実感できる一方、犯罪に巻き込まれないかと心配になる季節である。親としてできる対策は何か、考えてみたい。

防犯ブザーで防げる犯罪は、全体の2割?

保護者として、まず思いつく対策は、防犯ブザーを持たせることのようだ。

例えば、内閣府が行った「子どもの防犯に関する世論調査」(2006年)でも、「子どもの防犯のために効果的な取り組み」として、回答者の43%が「防犯ブザーなどの防犯グッズを持たせること」を挙げている。この割合は、52%の「防犯パトロールなどの活動」、46%の「近所の人たちとの情報交換」に次ぐ数字である。

もちろん、防犯ブザーは持たせないよりも持たせた方がいい。しかし、防犯ブザーには大きな限界があることも忘れてはならない。なぜなら、犯罪者にだまされてついていく子どもは、防犯ブザーを鳴らそうとは思わないからだ。

実際の事件のほとんどは、だまされたケースである。

警察庁が発表した「子どもを対象とする略取誘拐事案の発生状況の概要」(2003年)によると、「だまし」を用いた誘拐事件は、全体の55%だった。この調査の対象者には、中学生と高校生も含まれているので、小学生以下に限って推計すれば、被害児童の8割程度が、だまされて自分からついていったことになる。

犯罪にあったと気づかない、「だまされた」子どもたち

例えば、「ハムスターを見せてあげる」「カブトムシがいるよ」などと声をかけて、女児を団地の階段に誘い込み、わいせつな行為をしていた男がいた。この男は、逮捕後に約50件の余罪を自供したという。

その手口は巧妙そのものである。

「虫歯を見てあげる」と言って女児の口を開けさせ、舌をなめていたのだ。おそらく、被害にあった子どもたちは、自分が犯罪の被害者だとは認識できなかっただろう。この犯人を「虫歯を治してくれた親切な人」と思っていたに違いない。だからこそ親にも告げず、その結果、50件もの事件が発覚しなかったのである。

また、こんな信じ難い事件もあった。

「子ども用の風邪薬を作るから、つばをくれないか」「ジュースはのどに悪いよ。つばをちょっと見せて」などと話しかけ、女児につばを吐き出させた男がいた。この男は、その様子をビデオカメラで撮影し、さらには吐き出させたつばを持ち帰り飲んでいたという。この犯人は、17年間に約500人の女児からつばをもらったと供述している。

このように、事件の多くは、だまされたケースだ。しかし、この事実は、ほとんど知られていない。「だまし」を用いる犯人は、慎重に行動し、「捕まりそうにない場所」でしか子どもに声をかけず、その結果、なかなか捕まらないからだ。捕まらなければニュースになりにくく、事実を知ることもできない。

捕まるのは、軽率な犯人たちだ。つまり、場所を選ばず、いきなり襲ってくる犯罪者たちである。捕まればニュースになるので、ニュースを見聞きしていると、「犯罪者はいきなり襲ってくる」と勘違いしてしまう。その結果、対策が「襲われたらどうしよう」に集中していく。これが、日本の現状である。

襲われてからでは遅い。襲われないための対策が重要

襲われたらどうするかという発想は、クライシス・マネジメントと呼ばれている。気づいたときには犯罪はすでに始まっていて、子どもは絶体絶命、まさにクライシス(危機)に追い込まれている。

防犯ブザーや「大声で助けを呼べ」「走って逃げろ」といった護身術は、すべてクライシス・マネジメントの手法である。「犯人と対決する」というマンツーマン・ディフェンスと言い換えることもできる。

これとは対照的に、襲われないためにどうするかという発想は、リスク・マネジメントと呼ばれている。だまされなければ、ついていくこともなく、結果、襲われることはない。つまり、絶体絶命の場面を、はるか手前で回避できるのだ。行動次第で事前に回避できるので、リスク(危険)と呼ばれるにふさわしい。

私が考案した「地域安全マップづくり」は、リスク・マネジメントの手法である。それは、「犯人が近づけない」というゾーン・ディフェンスの手法でもある。

日本では、クライシスとリスクの区別が意識されていないため、犯罪対策がクライシス・マネジメントに大きく偏っていても、人々は違和感を覚えない。しかし、これは奇妙なことで、交通安全対策に当てはめるなら、「車にぶつかったときは柔道の受け身をとれ」ということになってしまう。

子どもが犯罪に巻き込まれないために最も重要なのは、「だまされないこと」である。では、だまされないためには、どうしたらいいのだろうか。

「人」に焦点を当てていると、有効な対策ができない

子どもの事件で、だまされたケースが後を絶たない原因としては、安全と危険を「人」を見て判断するように教えていることが挙げられる。

学校や家庭では、「不審者に気をつけろ」「知らない人にはついていくな」と繰り返し子どもに教え、子どもを「人」に注目させている。しかし、犯罪者とそうでない人を、見た目で区別できるのだろうか。

子どもたちに、「悪い人はどんな人か」と聞くと、「サングラスをかけている人」「マスクをしている人」という答えが返ってくる。ところが、本当の犯罪者は、防犯チラシに登場するような姿はしていない。むしろ「普通の大人」の格好をしている。

「知らない人」と言っても、子どもの世界では、知らない人と道端で二言三言、言葉を交わすだけで、知っている人になってしまう。ましてや、数日前に公園で見かけた人は、すでに知っている人である。

千葉県松戸市のベトナム国籍の女児が登校途中に連れ去られ、殺害された事件(2017年)では、ほぼ毎日通学路の見守りに立っていた小学校の保護者会会長という「知っている人」が犯人だった。

だれが犯罪を企てているかは見ただけでは分からない。言い換えれば、人に注目している限り、安全と危険を見分けられない。子どもを狙っている犯罪者は、だますことに何度も失敗しながら、だましのテクニックを向上させているので、純朴な子どもたちは簡単にだまされてしまう。

子どもにとって、だまされないための切り札は「景色」

子どもがだまされないためには、子どもを絶対にだまさないものを見るしかない。それは、景色である。人はウソをつくから、人を見ていてはだまされてしまうが、景色はウソをつかない。要するに、安全と危険は、「景色」を見て判断することが必要なのである。

危険な景色、つまり、慎重な犯罪者が「捕まりそうにない場所」とみなし、子どもに声をかけてくる場所は、どんなところだろうか。

犯罪機会論(※注1)によると、犯罪が起きやすいのは、「入りやすい場所」と「見えにくい場所」である。そうした場所を見抜く能力は、「景色解読力」と呼ばれており、それを伸ばすのが「地域安全マップづくり」なのである。

まず、街歩き(フィールドワーク)をしながら景色を診断する。

例えば、ガードレールが設置されていない道路は、車に乗った誘拐犯が歩道に「入りやすい場所」であり、両側に高い塀が続く道路は、家の中から子どもの姿が「見えにくい場所」である。田畑に囲まれた道路は、周囲からの視線が届かないので、「見えにくい場所」であり、落書きやゴミが多い場所も、地域住民から関心が寄せられていないので「見えにくい場所」である。

こうして集めた街の情報を、現場の写真を使って地図にまとめていくのだ。

私が子どもたちに指導し完成した地域安全マップ(筆者撮影)
私が子どもたちに指導し完成した地域安全マップ(筆者撮影)

「地域安全マップ」という名のマップは、ほとんどの小学校で作られるようになった。ところが、その実態は、過去の事件現場を暗記させようとする「犯罪発生マップ」、不審者への注意を呼びかける「不審者マップ」、犯罪機会論に基づかない「非科学的マップ」など、間違った作り方をしたものばかりである。

地域安全マップは、実際は普及していないのに、普及しているように思われていることが、普及を妨げている一因になっているようだ。

地域安全マップは、だれでも、どこででも、どんなときでも作製できるわけではない。そこで手軽に「景色解読力」を高められるよう、仮想の街でフィールドワークする動画を制作した。ぜひ、この機会にお子さんと一緒に視聴していただきたい。

親子で出かけたり、街の写真を見たりするときに、「入りやすい」「見えにくい」というキーワードを使って話し合うだけでも、子どもの「景色解読力」は確実に高まる。そうした知的チャレンジを続ければ、どこに行こうが、景色が発する警告メッセージに気づき、危険を回避できるに違いない。

注1:犯罪機会論とは、犯罪の機会を与えないことによって、犯罪を未然に防止しようとする犯罪学の立場である。そこでは、犯罪の動機を持った人がいても、その人の目の前に、犯罪が成功しそうな状況、つまり、犯罪の機会がなければ、犯罪は実行されないと考える。このアプローチが、防犯の国際標準である。しかし、日本では普及が進んでいない。