日本で初めて、不正な養子縁組団体が逮捕された件について

(写真:ロイター/アフロ)

日本こども縁組協会呼びかけ人の駒崎です。認定NPO法人フローレンスで、特別養子縁組事業に携わっています。

さる3月8日、以下のようなニュースが飛び込んで来ました。

養子縁組の元業者2人逮捕 営利目的疑いで全国初 千葉県警

http://www.sankei.com/affairs/news/170308/afr1703080024-n1.html

本件は、我々、日本こども縁組協会も千葉県警の捜査に協力したこともあり、経緯やこの逮捕の意義など、解説したいと思います。

【どんな事件だったか?】

分かりやすいように、事件の経緯を箇条書きにします。

・子どもを迎えたい50代と40代の夫婦がいて、千葉県の「赤ちゃんの未来を救う会」にアクセスし、2015年11月に養親(育ての親)として登録。

・16年2月、養親は、「救う会」に『負担金のうち100万円を先に払えば「優先順位が2番目になる」』と持ちかけられ(→これがアウト)、4月に団体の銀行口座に振り込んだ。

・5月には「来月出産予定の子どもがいる」と残る125万円も要求され、現金で支払った。

・養親に子どもは託されたが、実親が「最終同意していない」と翻意。養親は子どもを返さざるを得なかった。

・養親は「赤ちゃんの未来を救う会」を訴える

・16年9月27日、千葉県は、史上初の養子縁組団体への事業停止処分を行う。その後、会は解散

・17年3月8日、「赤ちゃんの未来を救う会」の中心人物である、伊勢田容疑者と上谷容疑者を逮捕(→今ここ)

【何が法的にアウトだったのか】

多くのメディアに報道されていますが、記者さんの理解度もあり「お金を取ったのが悪かった」という趣旨になっている記事が、見受けられます。

しかし、事業停止及び逮捕に至ったのは、「お金を取ったから」ではありません。特別養子縁組においては、人件費も含めてかかった費用を養親に請求することは認められています。

今回、逮捕にまでいたったのは、「(養子を託す)優先順位が上がる」と100万円を払わせた点です。「優先順位が上げる」ために費用はかからず、実費徴収の考えとは乖離します。

もし、業務と関係ない部分で費用請求ができてしまえば、縁組事業者は非対称な立場を利用し、不当に料金をつり上げ、養親を搾取することが可能になります。

そうだとすると、赤ちゃんの命を救う児童福祉制度である特別養子縁組は、人身売買のツールとなってしまいます。

我々、日本こども縁組協会が、逮捕前の上谷容疑者にヒアリングを行った際には、彼は「自分の仕事は、人の役に立っている」と自信を持って仰っていたので、悪事を働こうという意識はなかったかもしれないと思いますが、結果として法を踏み越えてしまうことになりました。

【倫理的に問題な点も】

また、今回の逮捕事案に直接関係ありませんが、「赤ちゃんの未来を救う会」は、残念ながら、特別養子縁組業界の倫理規範にのっとった運営をしていませんでした。

簡単に言うと、「ソーシャルワークの欠如」です。

インターネットの掲示板で、実親と養親を募り、ほぼ収入等のスペックだけでマッチングを行なっていました。家庭訪問なども行わず、Skype通話等だけで、養親の選定を行なっていたようです。

特別養子縁組は、子どもの幸せの追求を至上命題とする、児童福祉です。例えば年収が高い親が、良い親とは限りません。年収の高い、小児性愛者に託された子どもの、その後の人生はどうなるでしょうか。

縁組事業者は、養親候補の経済状況、生活実態、これまでの人生の歩み、親になる覚悟等、総合的に判断し、縁組を行なっていかねばなりません。そして、縁組後も伴走し、子どもが幸せに暮らしているかチェックとサポートをしていかねばならないのです。

「赤ちゃんの未来を救う会」は、そうした児童福祉事業者としての姿勢が、残念ながら欠落していたと言わざるを得ません。

【警察が逮捕に踏み切った理由】

これまで、不正な養子縁組団体を警察が逮捕するところまで行った事例はありませんでした。それは特別養子縁組事業を規制する法律がなく、何を基準とすれば良いかあいまいだったことがあります。

しかし、16年12月に「特別養子縁組あっせん法」(正式名称:民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律)が成立し、これまでの誰でもできる届け出制から、一定基準をクリアした事業者のみが活動できる、許可制になることに決まりました。

施行は2年以内に行われるので、まだ法は発動していませんが、この新法の存在が警察の背中を押したことは、想像に難くありません。

今後は、「赤ちゃんの未来を救う会」同様に、インターネットでスペックのみのマッチングを行なったり、「赤ちゃんをくれたら200万あげます」等と人身売買的な文言を掲載し、大阪府から行政指導を幾度も受けている大阪の「インターネット赤ちゃんポスト」等の事業者も、ようやく取り締まられていく可能性が高まりました。

【残る論点】

一方で、「法律破った業者がいたから、捕まって良かったね」では終わらない問題があります。NHKの報道では、伊勢田容疑者は以下のように述べています。

「法律に抵触しているとしても悪いことをしているとは思わない。あっせんの実費以外にも団体の運営に金がかかる」

ここは、関係者以外は分かりづらいポイントかと思いますが、現行制度の矛盾を確かに指摘していると言えます。

現行制度では、政府は特別養子縁組団体に、1円の補助も行なっていません。よって、養親からの費用請求によって、業を成り立たせます。しかし、「かかった費用」のみしか請求はできません。

そうすると、剰余金(利益)は得られません。当たり前じゃないか、非営利でないといけないんだから、と思われるでしょう。しかし、1円も剰余金が許されていないとすると、例えば翌年のコストが想定を超えてしまったり、ふいな出費があると、すぐに団体は潰れてしまいます。

よって、これまで民間の縁組団体の多くはボランティアベースか、あるいは産婦人科や他の本業があることでメイン収入があって、縁組事業が赤字でも大丈夫、という事業者が大半でした。フローレンスも、他の事業の収入で縁組事業の赤字をカバーしています。

しかし、これはビジネスセクターの方から見ると、大変不自然ですし、持続可能に見えません。こうしたことが、「救う会」が法を破っても悪くない、と思った背景にあります。

【十分な補助の必要性】

児童福祉は、例えば保育園や児童養護施設がそうであるように、専門性を必要とするプロの仕事です。当然お金もかかります。しかし、お金儲けのみになってしまってはいけません。

そういう領域には、政府がしっかりと補助を行い、持続可能な仕組みとしていくべきです。

特別養子縁組あっせん法には、補助制度の創設が書かれています。この補助が、縁組事業を十分に持続可能なものであるようなものになるかどうか。

それは、今後、野田聖子議員を中心として、超党派の議員連盟が作られ、補助制の制度詳細が詰められていきます。そこでの議論に注目したいと思います。

【再発防止に向けて】

再発防止に関しては、2年以内に許可制が始まることになり、政府からの許可を受けた事業者はある程度クオリティチェックを受けることになるので、再発の可能性は現状よりは大きく下がるでしょう。

しかし、この許可制の詳細も、超党派議連で話し合われていくので、注視していかなくてはなりません。

【養親希望のみなさまへ】

特別養子縁組事業者のほとんどは、真摯に活動を行なっている団体です。ですが、中には今回のケースのように、営利を優先し、事業に必要な倫理規範を逸脱している事業者もあります。

養親希望者の方々におかれましては、複数の団体の説明会等に参加し、理念や運営体制を見比べて頂くことが重要だと思います。

【最後に】

特別養子縁組は、赤ちゃんの命を救い、新しい家族を生み出す、素晴らしい制度です。適切な運用が行われれば、子どもたち、そして親になりたい人たちを幸せにできるツールです。法律を違反する人たちは退出して頂きながら、この制度自体は社会全体で育んでいきたいと思います。