「常磐もの」完全復活への道 福島沖の試験操業の海域が拡大決定

全国1億2千万の「常磐もの」ファンの皆様、朗報です。福島で行われている試験操業のエリアが拡大され、これまで福島第一原発沖20km圏内の自粛エリアが「10km」に縮小されることになりました。原発事故により大きな影響を受けてきた福島の漁業ですが、また一歩、本操業に向けて前進したことになります。

福島県沖の試験的漁 1日からの海域拡大を決定(2017年2月28日/NHK)

東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、福島県沖で行われている試験的な漁について、福島県漁連は海底のがれきの撤去が終わったことなどから、3月1日から漁をする海域を広げることを決めました。福島県沖では、福島第一原発の事故のよくとしの平成24年から、安全性が確認された漁場と魚介類について、順次、試験的な漁が行われていますが、原発から半径20キロ圏内では、漁の自粛が続いています。

これについて、福島県漁連の会議が開かれ、1日から漁を自粛する海域を半径20キロ圏内から半径10キロ圏内に縮小し、漁をする海域を広げることが全会一致で承認されました。海域の拡大は、海底のがれきの撤去が終わったことや、去年、行われた福島県沖の魚介類の放射性物質の検査で、8500余りの検体のすべてが国の基準を下回ったことなどが理由だということです。

出典:NHKニュース

NHKの記事を見ると、試験操業の対象になっているすべての魚が対象のように思ってしまいますが、実際には、相双漁協が試験的に「コウナゴ」に限定して10km圏内まで拡大するということのようです。20kmから10km圏内まで拡大はするが、実際に漁をするかは漁協の判断に委ね、段階的に他の魚種についても拡大していく見通しだとのこと。

とはいえ、自粛エリアが20km圏内から10kmに縮小されるということは、「より原発に近い位置で操業できるようになった」ということです。言い換えれば、当該エリアの魚の安全性が確認されたということでもあります。汚染水対策が効果をあげている、ということもあるのかもしれませんが、シンプルに汚染された魚が減ったということです。

なぜ汚染された魚が減ったのでしょう。

1つは寿命です。2011年当時、この海域でまともに汚染水を取り込んでしまった魚が寿命を迎え、代が変わっているわけです。もう1つが浸透圧。魚の身体の中のセシウムは浸透圧の関係で外に排出されますので、死なずに生き残っている高齢の個体も、かなり排出が進んだわけです。もちろん、現在も汚染水は完全には止められていないので影響はあるものの、機械で検出できない程度の影響に留まっています。

うむ、10kmは原発にかなり近いな、と思う方もいるかもしれません。ここで重要なのが魚の生態です。現在、出荷規制がかかっている魚種のほとんどが「根魚(メバルやマゾイなど)」です。根魚はあまり移動しないので、もともとこの海域に生息していた個体は、高濃度汚染水の影響をまともに受けてしまいました。ですから現在も生き残っている高齢の個体から放射性物質が検出されてしまうわけです。ただ、これらの魚は国から出荷規制がかけられており流通しません。

とはいえ、そうした根魚ですら、すでに多くの検体で不検出。ほとんどは1桁Bq/kgに収まっており、一部、高齢のシロメバルやマゾイなどで放射性物質が検出されることがありますが、現在は漁協の自主基準値50Bq/kgを超えることはないレベルで推移しています。「ほとんど移動しないマゾイのような魚ですら検出されても一桁」というのは、かなり回復が進んでいる証拠でもあります。

試験操業によって常磐沖の魚は大きく育っている。
試験操業によって常磐沖の魚は大きく育っている。

今回の海域拡大という措置、それだけデータも揃ってきていますし、妥当な判断であると思います。寒流と暖流がぶつかり合う福島県沖は多種多様な魚の宝庫でもあり、豊かな漁業資源があります。この5年間以上の試験操業、いわば禁漁によって資源も回復し、魚も大きく育ってきました。これらの漁業資源を地域の漁業再生のための足掛かりとしてもらいたいと思います。

―自主調査のデータとも符号

わたしは2013年から、いわき市内の有志たちと共に「うみラボ」という民間の調査チームを運営していて、定期的に福島第一原発近傍の海の魚を測ってきました。これまでに21回の調査を行い220の試料を計測してきています。もちろん、県の調査に比べるとサンプル数は少ないですが、民間人ベースでの調査では、おそらく日本で最もこの海域を調べているはずです。

民間調査チーム「うみラボ」によるイチエフ沖の調査の模様
民間調査チーム「うみラボ」によるイチエフ沖の調査の模様

2016年の10km沖の調査結果を見ても、キツネメバルで1検体のみ40Bq/kgというのがありましたが、ほとんどが不検出、あるいは一部検出されたものも、多くは一桁ベクレル程度に留まっています。国の出荷基準よりも厳しい漁協の基準値を大きく下回る数値ですので、わたしは安全だと判断しています。かなり慎重に判断したとしても「試験操業の対象に加えられている魚種」に関しては問題ないと言えます。

もちろん、今後、高線量の魚が見つからない保証はありません。ですので、今後も継続したモニタリング調査は必要です。万が一、高濃度の汚染水が大量に漏れれば原発近傍の魚にも影響が出てきます。こうしたことを監視するためにも、継続した調査は必要でしょう。福島県は、特に10km圏内の調査を増やし、多くのサンプルを計測してデータを出して欲しいと思います。

―「常磐もの」復活の狼煙

地元の漁業関係者に話を聞くと、試験操業の対象に加わったヒラメなどは、すでに市場で高い評価を受けているそうです。震災前から「常磐もの」として評価の高かったヒラメですが、滑り出しは好調のようです。また、市内の鮮魚店に話を聞くと、試験操業の魚は人気があり価格も安定しているとのこと。このまま慎重に資源を守りながら、本操業に移行して欲しいところです。

今回のニュースでは、一部の魚種で震災前の入札制度が復活することも報じられました。これまでは、値崩れなどを抑える目的で、水揚げされた魚は仲買組合が一括して購入するシステムを採って来ましたが、今後は一部の魚種から、これまでの入札が復活します。これで値崩れなどがなければ、試験操業の拡大を後押しすることになりますし、水揚げ量も改善するかもしれません。

常磐もの筆頭「ヒラメ」のカルパッチョ
常磐もの筆頭「ヒラメ」のカルパッチョ

本操業に持っていくまでには、おそらく時間はかかるでしょう。しかし、その間に、回復してきた資源をいかに守るのか、いかに持続可能な漁業を目指していくのかという議論は進めるべきです。持続可能な漁業のあり方は、福島の漁業だけでなく日本の漁業を再生する重要な議論になり得ます。震災前からの課題を解決するような形での復活を、ぜひ目指してもらいたいと思います。

もちろん、数値上安全だからといって「安心できない」という方もいるでしょう。私も「安全だから食べろ」と言いたいわけじゃありません。心配な方は、どうぞ他県産の魚を召し上がってください。ただ、常磐のヒラメほどうまいヒラメはそうそうないです。安心できる日が来ましたら、どうぞ福島の地酒とともにご賞味ください。