福島県産ヒラメ出荷規制解除 福島の漁業は新たなステージへ

福島の漁業関係者、それから「常磐もの」ファンの皆さまにとっては非常に大きな吉報といっていいでしょう。原発事故後、国の出荷制限がかかっていた福島県産のヒラメとマアナゴについて、国は、6月9日に出荷制限を解除しました。特にヒラメの解禁は、福島県の試験操業が新たなステージに入ったことを示す大きなニュースといっていいと思います。

ヒラメとマアナゴ出荷制限解除(NHK NEWS WEB / 2016.6.9 )

原発事故の後、国の出荷制限が出されていた福島県沖でとれるヒラメとマアナゴについて、国は、魚に含まれる放射性物質が安定して基準値を下回っているとして、9日、出荷制限を解除しました。

福島県沖でとれるヒラメやマアナゴは、原発事故の後、一時期、国の基準を超える放射性物質が検出されたため、平成24年の6月に国から出荷制限が出されていました。

出典:NHK NEWS WEB

―福島県の主力魚種だった「常磐のヒラメ」

福島県産のヒラメについては、原発事故の後のモニタリング調査で、国の基準を超える放射性物質が検出されていたため、平成24年6月から出荷制限が出されていました。陸から比較的近く、水深の浅い海の海底に棲む魚であり、回遊魚ほど移動範囲が広くなく、寿命が比較的長いことなどの理由から、原発事故直後の高濃度汚染水を取り込んだ個体が生き残り、ごくまれに漁協の基準値である50Bq/kgの放射性セシウムが検出される個体が見つかっていたためです。

しかし、原発事故から5年以上の時間が経過し、高濃度汚染水の影響をまともに受けた個体も、代替わりし、あるいは生き残ったものについても、この5年で体内からの排出が進んだため、県のモニタリング調査においても、50Bq/kg超えの個体は長期間にわたって見つかっていませんでした。

また、ヒラメは震災前には年間700トンを超える水揚げ量があり、そもそもが高級魚であることから、福島県の近海で獲れる魚種のなかでも「主力魚種」の1つとして確固たる地位を築いていました。特に大きく育ったヒラメは「常磐もの」として築地などでも高値で取引されており、福島の漁業にとって欠かすことのできない魚種でもあることから、今回「解禁」に踏み切ったものと見られます。

ヒラメの解禁には、2つの大きな意味があると考えています。1つは、これまでの「回遊魚」や「沖合の魚」とは違い、「浅い海域の底に棲む魚が解禁された」ということです。陸地から近い海底ですので、それだけ汚染水の影響を受けやすい魚種であり、原発事故直後に数千ベクレル級の汚染が見つかった魚種でもあります。しかしそのヒラメが解禁されるほど、福島の海は回復してきているということです。

2つ目は、ヒラメは県外の市場などでも高く評価された「常磐もの」の本命であり、常磐のヒラメの取引価格が、今後の福島県産の魚の評価に影響を与えかねないということです。大量に流通することから価格勝負となってしまいがちだったサンマなどの回遊魚と違い、震災前まで高い評価を受けていた「常磐もの」ですから、その価値を守れるかどうか、ヒラメ解禁が試金石になると思います。

筆者も原発沖の海洋調査でヒラメを釣り上げている
筆者も原発沖の海洋調査でヒラメを釣り上げている

―福島の海の回復を示す指標としてのヒラメ

まずここで考えたいのが、ヒラメの安全性です。私は、市内の有志たちとともに、福島第一原発沖での海洋調査を2年半にわたり続けてきました。ヒラメについてもこれまで複数の検体を調べており、自治体のデータに比べれば数は少ないものの、ある程度動向を見極めるだけの調査は重ねることができたと考えています。そのデータを少し紹介します。

うみラボ調査によるヒラメの線量データ
うみラボ調査によるヒラメの線量データ

我々の独自調査の結果を見ると、2014年は、セシウム合計で138Bq/kgを検出した個体もあり、全体のうちN.D.となったものは40%にとどまっていました。ところが、2015年はN.D.となる率が68%となっており、検出される数値も全体的に下がっています。我々の調査も、自治体の調査と同じように、50Bq/kgという漁協の自主基準を超えた個体はありませんでした。

個体を詳しく見ていくと、体長の大きな個体から放射性物質が検出されやすいことがわかってきました。なぜなら大きなヒラメは原発事故当時すでに成魚であり、震災直後に放出された高濃度汚染水の影響をまともに受けたからです。これに対し小さめの個体は震災後生まれであり、放射性物質がすでに希釈された海で育っているため、ほとんどの場合はN.D.、あるいは数ベクレル程度にとどまります。

さらに、水族館「アクアマリンふくしま」の富原獣医の協力で、魚の年齢がわかる「耳石」という器官を採取し、年齢の判定をして頂いたところ、7歳以上の個体から比較的セシウムが検出されることがわかってきました。これは、7歳以上の個体になると、成長しきってしまい代謝が弱くなってきているため、セシウムが排出されず残っていると考えられるからです。

もちろん、私たちの調査は「原発近傍」であり、漁の自粛されている20km圏外、いわき沖や相馬沖では、この値は当然下がりますし、県のモニタリング調査でも同様の傾向が見られています。また、漁で漁獲されるヒラメの多くは2~3歳であり、7歳以上の巨大なヒラメはあまり市場には出回りません。そのような事情を勘案すれば、今回の「ヒラメ解禁」は納得のいく決断だと評価できると思います。

ところで、なぜ時間とともにセシウムの排出が進むのかといえば、浸透圧を考えればわかります。浸透圧とは、細胞膜で隔てられた濃度の異なる2つの溶液の間で、濃度の低い方から高い方へ水が移動する力のこと。海水の塩分濃度は約3.5%、海水魚の細胞の塩分濃度はその3分の1程度なので、海水が魚の体に触れると、細胞内の水が外に流れ出してしまい、脱水状態になり死に至ってしまいます。

このため海水魚は脱水症状にならないよう、失われた水分を補うためにたくさん海水を飲みます。ただ、海水にはたくさんの塩類が入っているため、それを排出する機構が海水魚にはあり、余分な塩類はエラや腎臓などで排出されるのです。海水魚の肉(刺身)がしょっぱくならないのはこのためです。

実は、セシウムというのは塩分に含まれる「カリウム」と性質が良く似ているため、魚は塩分と一緒にセシウムも吸収してしまうのですが、塩分と一緒にエラと尿によって盛んに排出されます。海水のセシウム濃度が高いときはどんどん吸収してしまいますが、海水の濃度が下がるほど、体内のセシウムも排出されるわけです。「震災直後はセシウムが多く検出されたが、数年で下がった」というデータとも整合性がつきます。

以上の話とまとめれば「ヒラメが解禁されるほど福島の海が回復してきている」ということになります。まだアイナメやメバルなどのロックフィッシュは解禁されていませんが、ヒラメのような「浅場の海底に棲む魚」が解禁され始めたという事実は大変大きいと思います。私たちも、福島の海についての現状をアップデートしなければならないでしょうし、マスメディアでも大きく取り上げて欲しいと思います。

大きく育っているヒラメを「宝物」に磨いていけるか
大きく育っているヒラメを「宝物」に磨いていけるか

―常磐ものの価値を問う試金石としてのヒラメ

出荷制限が解かれると、漁協の組合長会議などを経て、ゴーサインが出れば晴れて試験操業が行われることになります。いよいよ常磐もののヒラメの復活! となるわけですが、重要なのはこれからです。ヒラメは常磐ものの主力であり、安全で高品質のヒラメまでもが、もし安値で取引され、スーパーなどで叩き売りされるようなことになれば、福島県産の魚介類の買い叩きが固定化しかねません。

買い叩きを防ぐためには、ヒラメの付加価値をさらに高めるということだと思います。原発事故後の5年余りの禁漁のおかげで、福島県沖のヒラメは大きく育ち、しかも資源量がかなり回復してきています。その価値を崩さずに、むしろさらに高めながら流通させていく工夫が必要なのではないでしょうか。もちろん、そんなことは漁業関係者の皆さんは重々承知でいらっしゃると思いますが。

例えば、漁獲した直後のシメ方や保管の仕方などを工夫する必要があると思いますし、市場に好まれる大きさのものを、あまり量を増やさずに流通させるなど、市場の反応をじっくりと見ながら少しずつヒラメを流通させていかなければなりません。大きく育っているからといってガンガン漁獲して出荷してしまえば、価値が薄れて買い叩かれてしまいます。宝物を守りながら流通させて頂きたいところです。

ちなみに、いわきの名物に「ウニの貝焼き」がありますが、いわき産のウニを使ったものについては、生産量がかなり少ないため、未だに高値で取引されています。それでも、仕入れている複数の魚屋さんに聞いてみると「売れ残ることはほとんどない」と口を揃えます。つまり「高くても売れる」商材になっているわけです。今後、流通量が増えて価格が安定するまで庶民は我慢しなければなりませんが、ヒラメも「高く売る」ことを遠慮せず、ブランド化を図るのも手だと思います。

福島県産の魚介類については、「風評被害」というよりも「安全だとわかったうえでの買い叩きが根深い」という関係者の声を耳にします。それでもなお流通業者に任せざるを得ない魚種があるのも事実だと思いますが、ヒラメまでそれを踏襲する必要はありません。むしろ福島の魚の価値をあげるための商材として、ヒラメを最大限活用して欲しいと思います。常磐のヒラメには、充分その価値があるはずです。

ヒラメを柱に「儲かる漁業」に転換していくことができれば、高齢化と後継者不足に悩む福島の漁業の自立に大きな力となるでしょう。資源管理と漁業経営の両方の意味において「持続可能性」を念頭においた戦略を立てて欲しいと思います。そのためにも、やはり「高く売る」ことを遠慮して欲しくありません。

ヒラメは、刺身や昆布じめのイメージが強い魚ですが、天然のヒラメ本来の甘みが感じられる、薄味で煮付けたヒラメもまた絶品です。もし食べる機会があれば、ぜひ福島の地酒などと合わせてご賞味下さい。「常磐もの」の魅力を充分に感じて頂けるはずです。

マアナゴも忘れちゃいけません。常磐沖のマアナゴは太く育つのが特徴で、ウナギよりも断然うまいという方も。私の住んでいる小名浜町内では「刺身」で食べることのできる飲食店もあります。特に刺身は新鮮さが命。地場のアナゴの解禁で、いわきの食の魅力がまた1つ増えそうです。

もちろん、そうしていくための大前提になるのが、継続したモニタリング調査と情報のアップデートです。汚染水の状況を把握するためにも、関係機関には、いわき沖や相馬沖だけでなく、特に原発近傍でのモニタリングを重視し、コツコツと情報発信を続けてもらいたいと思います。そして私たち自身も、新しい情報にアップデートしていく姿勢を失いたくないものです。