福島第一原発沖 民間モニタリング調査の最新結果

みなさんこんにちは、いわき市小名浜の小松理虔です。SNSでは福島についての様々な情報や言葉が乱れ飛んでおりますが、この場では実際の「データ」をベースに福島県の海の状況をアップデートして頂きたく、民間調査の最新データを紹介したいと思います。

2013年の冬から、いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」の協力頂きつつ、有志たちと「いわき海洋調べ隊 うみラボ」という民間の海洋調査チームを組んで、福島第一原発沖の魚の放射線量などを測定する活動をしています。活動も3年目に入りました。

今年もようやく活動が始まりまして、遅ればせながら、5月1日に今年初の調査を行ってきました。調査に合わせて放射性物質の計測も行いましたので、今回のエントリでは計測結果などを中心に紹介したいと思います。

海洋調査については、ぜひ、うみラボの公式サイトをご覧下さい。福島第一原発沖で、どのような感じで調査が行われているのかを知って頂けると思います。ちなみに、Yahoo! 個人オーサーで、廃炉についての情報発信を行う一般社団法人AFWの吉川彰浩さんも今回の調査に同行頂き、記事も書いて頂いています。そちらもご覧頂ければと。

釣った魚を見せ合う参加者
釣った魚を見せ合う参加者
視線の先には福島第一原子力発電所が
視線の先には福島第一原子力発電所が
5月1日の釣果。海洋資源の回復ぶりが見て取れた
5月1日の釣果。海洋資源の回復ぶりが見て取れた

やはり、実際に船に乗り、原発のある立地などを自分の目で確認しつつ、魚が生息している環境や生態、魚の重量感やエサの食べっぷりを「体感」してもらうことが大きいのかなと感じています。科学的な根拠に実体験が加わることで、これまでは単なる数字の羅列に見えていたデータに奥行きが出るような気がします。

調査は、毎回数人ですが一般の方も同船頂いております。有り難いことに問い合わせも多く、なかなかご案内できないのが心苦しいのですが、誰でもご参加できます。詳しくはうみラボの公式サイトをご覧ください。

―原発沖の魚から放射性物質は検出されたか

測定は、いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」の協力のもとに行われており、「調べラボ」というイベントのなかで、包み隠さず一般公開されています。獣医の富原聖一さんを中心に専門家からレクチャーを受けながら、魚のことを知り、結果的に福島の海のついての認識が深まるといったイベントになっています。

アクアマリンの富原獣医によるわかりやすいレクチャー
アクアマリンの富原獣医によるわかりやすいレクチャー
参加者の目の前で測り、公表し、考察する
参加者の目の前で測り、公表し、考察する
子どもたちの姿も。魚を知ることを通じて、食への関心が高まっていく
子どもたちの姿も。魚を知ることを通じて、食への関心が高まっていく

さて、放射性物質の計測データですが、以下のような結果となりました。これらはすべて5月1日の海洋調査で採取したものになります。海底土は1.5kmのポイントで、魚は2kmと10kmの2カ所で採取しました。1尾では計測に足りないものは複数の魚の筋肉を混ぜて計測しています。

画像
シロメバルの計測データ
シロメバルの計測データ

意外にもN.D.というデータが並んでいます。検出限界値は、個体によっても異なりますがおおよそ5~8Bq/kgといったところでしょうか。皆さんは、高いと感じますか? それとも随分下がったなあと感じますか?

調査3年目になりますが、私の率直な感想は、原発2kmのアイナメがN.D.となっていること、かつて高線量の傾向にあったシロメバルも6Bq/kgだったことを考えると、原発近傍の魚もかなり回復してきたなという印象です。印象というか、データにもそれが見て取れますので「実際にそうなってきている」ということなのですが。

シロメバルという魚をとりあげ、少し詳しく見ていきましょう。

5月1日の調査で採取したシロメバル
5月1日の調査で採取したシロメバル

シロメバルという魚は、沿岸の海底に住んでいて、さほど移動しない魚であることから、汚染水の影響をまともに食らい、事故後は1キロあたり数千ベクレル級の個体も見つかっていました。しかも寿命が長いので、事故当時に被曝した魚が長生きしていたりします。ですのでシロメバルは試験操業の対象にはなっていません。

ところが、私たちの調査などからもわかるように、このシロメバルもだいぶ線量が下がってきています。事故から5年以上が経過し、事故当時に汚染水の影響をまともに受けた個体も、体内からのセシウムの排出が進んできているのです。これはメバルに限らず他の魚種にも共通しています。

なぜ排出が進むのかといえば、「浸透圧」を考えるとよくわかります。浸透圧とは、細胞膜で隔てられた濃度の異なる2つの溶液の間で、濃度の低い方から高い方へ水が移動する力のことをいいます。生物の細胞の塩分濃度は約0.9%、海水の塩分濃度は約3.5%なので、海水が魚の体に触れると、細胞内の水が外に流れ出してしまい、脱水状態になり死に至ってしまいます。

このため海水魚は、脱水症状にならないよう、失われた水分を補うためにたくさん海水を飲みます。ただ、海水にはたくさんの塩類が入っているため、それを排出する機構が海水魚にはあり、余分な塩類はエラや腎臓などで排出されるのです。そのため海水魚の肉(刺身)がしょっぱくなることがありません。

実は、セシウムというのは塩分に含まれる「カリウム」と性質が良く似ているため、魚は塩分と一緒にセシウムも吸収してしまうのですが、塩分と一緒にエラと尿によって盛んに排出されます。要するに、魚の身がしょっぱくならないのと同じ理由で、海水魚の体内では生物濃縮は起きづらいと考えられているわけです。「震災直後はセシウムが多く検出されたが数年で下がった(排出された)」というデータとも整合性がつきますね。

また、生息環境も重要です。現在の福島県の海域は、事故直後に流出した放射性物質が希釈され、線量は極めて微量になっており、海水から魚の体内に取り込まれることはほとんどありません。さらに原発沖の海底は砂地であり、セシウムの溜まりやすい魚礁ではないため、環境から影響を受ける割合が泥地に比べて小さいのです。

福島県に生息している魚のうち、もっとも高線量の傾向にあったシロメバルがこのような状況ですので、その他の魚種の回復傾向は推して知るべし。アイナメ、ヒラメ、クロソイといった沿岸性の魚も、シロメバルと同様に回復傾向にあることがデータでわかってきました。着実に回復が進んでいるということが言えると思います。

中でも不検出が続いていた「ヒラメ」が試験操業の対象に加えられる日も遠くないかもしれません。

―国の基準値超えゼロという事実

やはり魚も動物ですので、予想不能な動きをする個体もあり、原発の港湾内に侵入して汚染されたエサを食べてしまったり、10年近く長生きするようなメバルもいたりしますので、まれに数10Bq/kgといった個体が見つかることもあります。東電や自治体のみに頼ることなく、民間の団体が引き続き調査を続けていかなければなりません。

しかしながら、昨年1年間に福島県のモニタリング調査が行われた8438検体のうち、国の基準値を超える検体はゼロだったことが報じられています。N.D.になる割合も91.3%となっており、福島県の海洋環境が相当に改善してきていることだけは間違いありません。この傾向は私たちの調査結果とも重なりますので信用できるものと考えます。

<原発事故>セシウム基準超の魚 1年ゼロ(河北新報 2016/4/28)

福島県が沿岸海域で実施している魚介類の放射性セシウム濃度のモニタリング検査で、昨年4月から今年3月までの1年間、国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超える検体はゼロだったことが27日、いわき市で開かれた県漁連組合長会議で報告された。県水産試験場は「今後も基準値を超える可能性は極めて低い」と説明している。

出典:河北新報

原発事故当時の報道があまりにセンセーショナルだったため、あの印象が強く残り、「汚染水が垂れ流されているのだから、福島の魚は食べられないんじゃないか」と感じていらっしゃる方も多いかもしれませんが、実際に調べてみたら、そうではないということです。やはり自然環境ですから、5年という月日で様々な変化があるわけですね。

一方、まだまだ信用できないという方もいらっしゃるでしょうし、ストロンチウムやトリチウムが心配という方もいるでしょう。水産庁もストロンチウムのデータを公表しています。その他、市民測定室などが調べて公表しているデータなども勘案しつつ判断してみて下さい。

少しでも不安が取り除かれ、例え数十年後でも、安心して福島の魚を召し上がって頂く日が到来することを祈念しております。絶対に食わんぞという方は、ご縁がなかったと思うほかありません。どうぞ他県産のお魚を召し上がって下さい。

さらに一歩踏み込んで、福島の魚のことが知りたいという方、ぜひアクアマリンふくしまの「調べラボ」というイベントにお越し下さい。魚の専門家から直接、楽しく面白く、そして色々なお話が聞けると思います。