福島県産品の放射性物質、いつまで測ればいいですか?

いわき市小名浜の小松理虔です。2012年から15年春まで地元の蒲鉾メーカーで営業・広報担当として働いてきました。現在は、フリーランスで、いわき市内の生産者や中小企業の情報発信や営業などを支援しています。今回は、その立場から福島県産品の安全性のPRについて、とりわけ「測る」ことについて取り上げたいと思います。

本題に入る前に、福島の食に関する調査結果などをご紹介します。

まずご紹介したいのが、放射性物質に対しては厳しい姿勢で臨んでいるコープの陰膳調査。陰膳調査というのは、家族人数よりも1人分余計に食事を作り、それを2日分(6食+おやつや飲み物なども含め)保存して検査センターに送り、放射性物質を測り続けるという調査です。県内の100の家庭が対象で、手間はかかるものの、実際にどの程度食事によって放射性物質を摂取しているのかがわかる調査です。

それによれば、調査した100の家庭中、1kgあたり1ベクレル以上のセシウムが検出された家庭はゼロでした。2014年に続いて2年連続となるゼロという結果です。調査を行ったコープふくしまは、このように結論づけています。「5年間で延べ700家庭を調査した結果からは、下限値(1Bq/kg)以上の放射性セシウムを含む食事を継続して取り続けている可能性は極めて低いと想定されます。

おそらく福島県産品を全国で一番食べているであろう福島県民の食事がこれですので、福島県産品を普通に食ってる分にはまったく心配がないということです。もちろん、出荷規制のかかっている獣肉や、空間線量の高い山中に自生する山菜などを毎日何キロと大量に食べていたらわかりませんが、出荷されているものを普通に食べていたら、内部被曝を心配する必要はまったくありません。私はそう判断しています。

―汚染水の影響が懸念される福島の魚も状況は改善

汚染水の影響が懸念される福島県沖の魚についても、原発事故直後から比べ、状況は相当に改善されていることがわかってきました。2015年1年間に行われた福島県のモニタリング検査では、計測対象となった8577の海産物のうち、国の基準値100Bq/kgを超えた検体の数はわずか4。多くは検出限界値を下回る結果となっています。

国の基準値を超えた4つの検体を個別に見てみると、シロメバルが3検体、イシガレイ1検体でした。どちらも国の出荷規制がかけられており、試験操業の対象には加えられていません。つまり流通していないわけです。流通している魚種については、関係機関が慎重に対象魚種を選んでいます。魚屋さんで見つけたらどうぞ味わってみて下さい。

―関係者の執念とも言うべきコメの全袋検査

福島県の徹底ぶりが端的に現れているのがコメの全袋検査。ご存知の方も多いと思いますが、この検査は、福島県産の玄米すべてに対して放射性物質検査を行うという途方もない取り組みで、福島県の地域ごとに「全量全袋検査場」を設け、持ち込まれた玄米30Kg入りの袋すべてをスクリーニング検査するというものです。

生産者や関係者の「執念」とも呼ぶべき調査で、平成27年産のコメについては、およそ1030万袋を調査しており、国の基準値を超えるものは「ゼロ」でした。福島民報によれば、平成24年には基準値超えが71点あったものの、平成25年が28点、平成26年が2点と減少傾向にあり、平成27年産米で、ようやく初の基準値超えゼロを達成しました。

27年産米基準超ゼロ 県、ブランド再興目指す 放射性物質検査(福島民報 2016/1/8)

もちろん1030万袋のすべてが「不検出」というわけではありませんが、精米して水でコメを研いで炊くと、セシウムを大幅に除去できることがわかっています。また、さきほど紹介した陰膳調査を見る限り、福島県産のコメを摂取することによる内部被曝というのは、ほとんど無視してよいと言っていいでしょう。

コメが「基準値超えゼロ」ということになれば、福島県の農業全体の安心感が高まります。検査にはかなりの費用がかかりますが、コメは農産物の代表というイメージが強く、コメの安全性が県産品のイメージを左右しかねません。「県産品のイメージアップ」という意味で、全量全袋検査の果たす役割は非常に大きいものがあり、検査は今後も続けられるものと見られています。

とはいえ、闇雲にすべてを測り続けて「安全です」とデータを出し続けることが効果的なのかは、考えたほうがよいタイミングではないでしょうか。

これは「測らなくてよい」ということではありません。測ることのメリット/デメリットを今の状況や客層に照らし合わせて検証し、もう一度マーケティング戦略を立て直すべきだということです。もちろん、必要なら測るべきですが、測った先に何が得られるのかを吟味して測ろう、ということでもあります。

―あえて測り続ける、いわきの菌床きのこメーカー

いわき市小川町の菌床きのこメーカー「小川きのこ園」では、震災から5年が経過した現在も放射性物質を測り続けています。

同社は、原発事故後、大口の注文が激減。商品の安全性を取引先に伝えるため、数百万円する計測器を独自に購入し、菌床を植えつける「培地」と「製品」については毎日、培地に使われる「おが粉」については入荷時に、それぞれ放射性物質の計測を行ってきました。自主基準値は5Bq/kg。それを超えた場合は出荷、あるいは使用しないことになっています。

きのこというと、未だに「天然もの」を思い浮かべる方も多いそうです。室内で菌を培養して育てる「菌床栽培」で生産されていることをアピールしても、自己直後の「天然のきのこは汚染されている」というイメージで固まってしまっている方も少なくないとか。

また、googleなどで「福島_きのこ」と検索すると、「汚染」のようなワードが続いてしまう状況が続いており、ネットの検索環境の悪さ、悪質なデマページの残存も、きのこのイメージダウンに拍車をかけているようです。

同社によれば、これまで5年間の計測で、5Bq/kgを超える製品が見つかったことは1度もありません。もう測らなくてもいいのでは? という声もあるそうですが、「これからも測り続ける予定だ」と、同社の土屋工場長は語ります。

取材に応じて頂いた小川きのこ園の土屋工場長
取材に応じて頂いた小川きのこ園の土屋工場長

「最近では、おかげさまで『大丈夫なのはわかってるからデータを報告しなくてもいいよ』とおっしゃってくれる取引先も増えました。しかし、培地のオガ粉は天然木のものです。絶対に検出されないという保証はありませんし、万が一のことがあれば、お客様の信頼を裏切ってしまうことになりかねません。それに、仮に放射性物質が検出されなかったとしても、測り続けるということが信頼を生むと思います。ですから、これからも放射性物質の計測は続けます」(土屋工場長)

土屋工場長によれば、製品の計測には毎日1.3kgのエリンギを使うそうです。週7日毎日測るため、1ケ月で40キロものエリンギを計測に回さなければなりません。それを5年も続けてきたわけです。本来なら販売できるはずの商品を粉々にして計測に回すということは、生産者にとっては自分の身体を傷つけるようなものです。

また、放射性物質を測っていることを示すことで、かえって「放射能」を想起させることになるという面も否めず、取引先から「『放射性物質検査済み』などのシールは貼らないで欲しい」というリクエストが寄せられることもあるそうです。つまり「測ること」あるいは「測っていることを示すこと」のデメリットも出てきているということです。

このような事情もあり、同社では、震災6年目となる2016年3月11日以降から、毎日計測していた培地と製品の測定を「週1回」に減らしました(おが粉は従来通り入荷のたびに計測)。計測回数は減るものの、5Bq/kgという自主基準は非常に厳格であり、今後も週1ペースで計測していくわけですから、同社の食の安全に対する取り組みは高く評価されるべきであることは言うまでもありません。

同社のように、測り続けることで得られる顧客からの信頼や、「どこまでアピールするか」など情報発信の仕方などにも目を向けつつ、現実的な形で「測る」ことを継続していくことが、より一層求められるのではないかと感じています。

―福島県産品、いつまで測るのか問題

原発事故以降、「測ること」は、福島県産品の安全性を伝えるには絶対に必要なことでもありました。しかし、そろそろ、コメの全袋検査に代表されるスクリーニング検査を「いつまでやるのか」ということを考え始めてもよいのではないでしょうか。

もちろん、産品によって検査の必要性や頻度は違いますから、すべての産品について「もう検査しなくてよい」と言うことはできません。しかし少なくとも、「測ることで得られるメリット/デメリット」を冷静に判断しつつ、「測る」ことの意味を再確認すべきだとは思います。

“福島県産の食べ物の購入ためらう”15.7%、消費者庁調べ(2016/3/10 TBS News i)

先日、福島県産品の購入をためらう消費者が15%ほどいるという消費者庁の調査結果が伝えられました。このように数字が出ると、「この15%の人たちの不安を払拭して安全性を知ってもらおう!」と考えがちです。なぜなら「風評被害払拭事業」というのは、まさにこの15%の方のための事業だからです。しかし、その15%の方々の考えを翻意させるのは難しい。

そうではなく「残りの85%」に対するマーケティングを徹底すべきです。

(もちろん、これはマーケティングだからできることであり、福島県産の食に不安を感じている人たちを排除しろということではありません。お客としてはサヨナラできても、地域社会の一員としてどう受け止めていくかは別の話です)

この85%のなかには、「積極的に買っている人」、「ぼんやり大丈夫だと感じている人」、「あまり気にしてすらいない人」といった方々が折り重なっているものと見られます。積極的に買っている人の多くは「安全なのはわかっていて買っている」という方がほとんどでしょう。ボリュームとして一番多いのは、「ぼんやり層」や「気にしてすらいない層」のはずです。コメの全袋検査なんて知らないという人がほとんどだと思います。

そういう層に、今のような「放射性物質検査をしていることを示す」ことは有効なのか、現在のようにコストをかけて精緻な調査をすべきなのか、測っていることはどのように評価されているのかなど、測ることのメリット/デメリットを今の状況や客層に照らし合わせて検証し、もう一度マーケティング戦略を立て直すべきだと思います。

労力もコストもかけて検査しているのに、「検査そのものも知られていない」、「売り上げも回復していない」のだとしたら、何のための計測なのでしょうか。少なくともコストに見合った計測の「リターン」を目指さなければ本末転倒です。「コメも測っているから弊社も測ろう」というのでは、計測のための計測になってしまいます。

私たちは、これまで「買わない人たちの動向」を気にしすぎてきました。このため「買う人の動向」についてのリサーチが不足しているのです。なぜ買ってくれないのか、どうしたら買ってくれるのかではなく、買ってくれる人はどこを評価してくれているのか、どうしたらリピーターになってくれるのかに、もっと目を向けるべきではないでしょうか。

もちろん、すべての産品で計測なんてしなくてよい、ということではありません。しかし、例えば魚のモニタリング検査も、ただ闇雲に測って公表するのではなく、顧客層を意識し、どの程度の情報を、どのように出せば届くのかを戦略的に考えたほうが現実的です。「測る」ことを、風評被害対策(15%向け)ではなく、マーケティング(85%向け)としてやるべきということです。

というか、福島県が現在行っている風評被害対策は、事実上のマーケティングであり販路開拓です。風評被害という言葉は、政府や東電から予算を取るのに必要なのかもしれませんが、消費者に購買を押し付ける「食べて応援」や「風評被害」はイメージの低下を招きます。特に「風評被害」という言葉は、「消費者がいつまでも警戒するから売れないんだ」というメッセージを暗に発してしまうことになります。

もちろん「測る」ことはこれからも必要だと思いますが、何のために測るのか、測った先に何があるのか、それらをどう売り上げに繋げていくのかをイメージしながら、測定のあり方を問い直す時期に来ているのではないでしょうか。

他県の物産と、うまさの真っ向勝負の戦いを繰り広げていかなければならないはずなのに、「風評被害」や「食べて応援」を言い続ける限り、私たちはスタートラインにすら立てないのですから。