福島第一原発沖 魚たちの今

いわき市小名浜の小松理虔です。

2012年の冬から、有志たちと「うみラボ」という民間の海洋調査チームを組んで、福島第一原発沖の魚の放射線量などを測定する活動をしています。今年も8回ほど海洋調査を行いました。昨年との比較のデータなども出てきましたので、こちらでご案内したいと思います。福島の海の今を理解するための判断材料としてご利用頂ければと思います。

調査の模様については、うみラボのブログなどを参考にして頂ければと思いますが、漁師の方の協力を頂き、船で福島第一原発沖に向かい、楽しく魚を釣って、ついでに放射線量も測ってしまおうという活動でして、いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」の協力を頂きつつ調査・計測を行っております。運営については、恥ずかしながら手弁当でありまして、今のところどこからも活動資金は頂いておりません(涙)。

ここで紹介するものは、海洋学者でも生物学者でもない一般市民の私たちが、水族館の獣医の先生や、放射線計測の専門家などにアドバイスを頂きつつ、あくまで一般市民として調査し、わかってきたことを書いております。学びながらの活動ですので何か不備があるかもわかりません。「いや、ここはこうじゃね?」という専門的なご意見大歓迎です。ぜひお寄せ下さい。

福島県全体の概況

福島県全域での海洋調査は我々では行えませんので、自治体などの調査ですでに明らかになっているデータなどを確認頂きたいのですが、福島の海は全体として回復傾向にあることは事実です。個別で見ればまだキロあたり数十ベクレルのセシウムを検出する魚種もありますが、100Bq/kg超の個体が見つかった割合は2015年に入り0.1%にまで減りました。この傾向は私たちの調査結果とも重なります。

引用元:http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/138962.pdf

福島復興ステーションより引用
福島復興ステーションより引用

安全性の確認された魚種については試験操業も始まっていて、県内のスーパーや鮮魚店などを中心に、県産の魚介類が出回っています。試験操業の対象魚種は現在67種類と年々少しずつ拡大しています。まだまだ漁獲量が少ないので本来の姿ではありませんが、徐々にかつての姿を取り戻し始めていると言っていいでしょう。

試験操業の対象になっているのは、ツブやホッキなどの貝類、エビ・カニなどの甲殻類、イカ・タコなど軟体動物、それからイワシやサバなどの回遊魚や、メヒカリやキンキなどの沖合の魚などで、これらは「セシウムを溜めにくい/排出しやすい」など生物学的理由に加え、度重なるモニタリング調査で不検出が続くなどの「状況証拠」が積み重なったうえで対象魚種に選ばれます。

試験操業の魚種がどのように選定されるのかについては、福島漁連のウェブサイトなどを参考にしてみて下さい。

一方で、国から出荷制限をかけられている魚種もあります。まれに線量が高い個体が見つかる魚種だからです。沿岸性の根魚、具体的には、ヒラメ、アイナメ、メバル、一部のカレイなどがそれにあたります。うみラボでは、それら沿岸性の根魚を中心に自主的な調査を行ってきました。

検出されるセシウムが減ってきているヒラメ

ヒラメを釣り上げてドヤ顔の筆者
ヒラメを釣り上げてドヤ顔の筆者

2014年、2015年と、我々の調査の中でもっとも釣れた魚がヒラメでした。ヒラメは浅い海域の海底に生息する魚であることから、原発事故直後かなり高い放射線量を記録していました。このため「汚染されている魚」というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、実際にはかなり回復してきていることがわかってきました。

2014年と2015年の我々のデータが以下の通り。魚はすべて原発沖10km圏内で採取したものです。

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2014年は、セシウム合計で138Bq/kgを検出したものもあり、全体のうちN.D.となったものは40%にとどまっていましたが、今年はN.D.となる率が68%となっており、検出される数値も全体的に低くなってきていることがわかります。原発時当時にすでに成魚だったと思われる60cmオーバーの個体も20Bq/kg台ですので、かなり排出が進んできたものと考えられます。

なぜ身体の大きいヒラメからセシウムが検出されやすいのかというと、それらのヒラメは原発事故当時すでに成魚となっていて、震災直後に放出された高濃度汚染水の影響をまともに受けたからです。これに対し、震災後に生まれた小さめの個体は、放射性物質がすでに希釈された海で育っているため、ほとんどの場合はN.D.、検出されても数ベクレル程度にとどまります。

ですので、まずは「震災前生まれか」か「震災後生まれ」かを見ると、おおよその見当がつくということです。

うみラボでは、アクアマリンふくしまの富原獣医の協力で、魚の年齢がわかる「耳石」という器官を採取し、年齢の判定をして頂いていますが、それらと照らし合わせると、「7歳以上の個体」から比較的セシウムが検出されることがわかってきました。これは、7歳以上の個体は成長しきって代謝が弱くなってきているため、セシウムが排出されず残っていると考えられるからです。

水族館の測定イベントで耳石を観覧者に見せる富原獣医
水族館の測定イベントで耳石を観覧者に見せる富原獣医

これに対し、現在5歳程度のヒラメは、震災時すでに生まれてはいたものの、その時点では幼魚であったため、代謝も盛んで、その後の成長過程でセシウムの排出が進んだものと見られます。このため現在では、検出されても数ベクレル程度に収まるわけです。同じ震災前生まれでも「7歳以上」と「5歳くらい」では違うんです。このように、年齢を読み解く必要性が分かってきました。

まれに高い線量が検出されるアイナメ

常磐沖のアイナメといえば超高級ブランド品
常磐沖のアイナメといえば超高級ブランド品

震災直後は非常に高い放射線量を記録したアイナメも、線量は下がってきています。昨年のサンプル数がもの足りないのでなかなか比較はできませんが、今年採取したアイナメはN.D.の割合が高くなってきました。検出されたとしても、大きめの個体では、多くの場合N.D.であり、検出されたとしても一桁ベクレルにとどまっています。

ただ、4月に小型のものを2個体をいっぺんに測った際、46.2Bq/kgのセシウムが検出されました。アイナメは小型のもののほうが原発に近い沿岸に生息しており、線量が出てしまうものと推察されます。大型になると少し沖に移動するためセシウムが排出され、検出されにくくなるようです。判断の難しい魚種です。

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小型のアイナメは震災後生まれの個体ですので、流出当時ではなく「現在の海から」影響を受けているということになります。これをさらに低くするためには、海に流れ込む放射性物質を完全に封じ込めないといけません。小さなアイナメを測ることは、汚染水対策が効果を出しているかの判断材料になりそうです。

このように、同じように検出されるセシウムですが、ヒラメの場合は「震災前生まれの個体が事故直後に放射性物質を取り込み、それが排出しきらず残っている」のに対して、アイナメの場合は「若い個体が現在の海域から影響を受けている」と考えられます。考えられる、というのは、専門家の間でも結論が出ていないからで、このあたりは、今後さらに継続して調査されていくものと思います。

また、ヒラメにしてもアイナメにしてもそうですが、個体によっては原発湾内に入り込んで放射性物質を吸収してきてしまう可能性もあり、たまに高い線量の個体も見つかっています。このことが、未だに試験操業の対象に加えられない事情の1つになっているのかなと推察されます。

ヒラメについてもっと詳しく知りたい方は、togetterにもまとめられていますので、そちらも参考になさるのがよいかと思います。

ヒラメの試験操業はなぜ再開されないのか(togetterまとめ)

今後もまだ少し心配なメバル

常磐沖では30cmを超えるメバルが続々釣れる
常磐沖では30cmを超えるメバルが続々釣れる

ヒラメ、アイナメに対して、まだ少し心配なのがシロメバルです。シロメバルの調査は今年から本格化しまして、今年は9試料を計測しています。1尾だけでは計測に必要な筋肉の量が足りないので、3尾~6尾程度の筋肉をまとめて容器に入れて計測しています(そのためシロメバルをかなり釣りました)。

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9試料のうちN.D.だったのは1試料のみ。中には106Bq/kgを検出した試料もあり、やはり福島県沿岸で獲れる魚のうち、メバルはもっとも高い線量が検出される魚種と言ってよいかと思います。「測れば出る」という感じですね。

なぜメバルから高い放射線量が検出されるかというと、(1)沿岸の海底に棲んでいる、(2)あまり移動しない、(3)ご長寿である。つまり、原発事故直後に放出された高濃度汚染水の影響をまともに受けたうえ、ずっとそこにとどまり続け、なおかつ、その影響を受けた5歳以上の個体がまだまだ現役で生きているということです。

寿命の短い魚は、仮に高濃度汚染水の影響を受けても2、3年で代が入れ替わりますので、現在漁獲されるものは「震災後生まれ」になります。放射性物質が希釈が進んだ海で育っているため、ほとんど汚染されていません。ところが、寿命の長いメバルのような魚は、当時身体に取り込んでしまったセシウムが排出されないまま生き延びている。中には10歳を超える個体もありました。

キツネメバル、クロソイなども似た生態の根魚であり、やはり同様の傾向が見られます。震災前生まれの個体に、比較的高い放射線量が検出されています。今年8月9日に採取したイシガレイから94.9Bq/kg検出されていますが、このイシガレイも、比較的浅い沿岸の海底に棲んでいる種類であり、震災前生まれでした。生態と年齢と線量は、深い関係にあるわけです。

うみラボ調査からわかった福島の海の現状

総じて言えば、福島の海は回復傾向にあります。注意しなければならない魚種も、上記のようにだいぶしぼられてきました。東電の汚染水対策が進み、放射性物質が海に流れ込むのを封じ込めることができれば、さらに回復は進むでしょう。敢えてわかりやすくまとめるならば、「線量が気になるのは7歳以上の沿岸性の根魚」ということになります。

一方、メバルのように寿命の長い魚は、震災前生まれの個体が死んで「代替わり」するのを待たなければなりませんので、もう少し時間はかかるかもしれません。

いずれしても、一口に「福島の魚は食べられない」というようなことは、まったく当てはまりません。魚種、生態、年齢によって状況も異なります。すでに安全性の確認された魚種も数多くありますので、そこは個別に見ていかなければなりません。

もちろん、現在の環境からの影響はゼロではありませんし、原発構内に泳いでいって放射性物質を吸収してきてしまう魚もゼロではありませんので、すべて安全ということではありません。先日、漁協の自主基準値である50Bq/kgを超えるマダコが見つかるなど、想定外のことは起こり得ます。ですからやはりモニタリング調査は確実に遂行されるべきです。

また、もし新たな高濃度汚染水が流出すれば、原発前の魚の数値にも出てくるはずです。東電のちょろまかしを見逃さないためにも、特に原発沖のモニタリング調査は継続していくべきだと思います。私たちも、来年以降も継続して調査していく予定です。その都度、ネットなどで調査の同行者を募集していますので、行ってみたい、釣ってみたいという方はご連絡を。

福島の漁業に関しては、全国的なニュースがほとんどないうえ、たまにある放送が「汚染水が流れた」というようなものばかりですので、「やっぱ福島の魚はダメだな」というところで止まっている方も多いと思いますが、実際にはかなり回復してきているということを、頭の片隅にでも入れておいて頂ければと思います。

改めて申し上げるまでもないかもしれませんが、これらのデータをもってして「福島の魚はすべて安全だから食え」と言いたいわけではありません。食う食わないは個人の自由ですし、安全な魚が増えたからと言って政府や東電が免責されるわけでもありません。政府・東電への責任追及と、これからのエネルギー問題と、現在の福島の海の状況は分けて考えたいものです。

福島の海の状況を知るための判断材料としてお役立て頂ければ幸いです。