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ツイッター、マスク氏の「言論の自由」で広告離れか 買収巡り様々な反応、欧州委員も警告

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米ツイッターが米テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の買収提案を受け入れたことが明らかになってから様々な反応が出ている。

マスク氏にくぎを刺す欧州委員

欧州連合(EU)のブルトン欧州委員(域内市場担当)は米ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで投稿コンテンツの管理に関して「マスク氏も欧州域内のルールに従う必要がある」と、くぎを刺した。

ツイッターなどの主要SNS(交流サイト)はサービス開始以来、嫌がらせや不正操作、有害な誤情報の影響を受けにくいプラットフォームの構築を目指して指針を導入・実施してきた。こうした措置は、安全なネット空間を求める広告主にとってプラットフォームをより魅力的なものにするという狙いがあった。また、「コンテンツに関する全責任はプラットフォーム企業側にある」と主張する政治家や規制当局への対応策でもあった。

一方、マスク氏は買収提案にあたって「ツイッターは世界の言論の自由の基盤になり得るが今のままではその責務を果たせない」と主張。自身のツイートでも「単に言論の自由が法に一致すると言っているだけだ。法をはるかに超えた検閲に反対する」と、ツイッターが導入している検閲的なコンテンツ管理体制への不満を吐露した。

ブルトン欧州委員もツイッターに投稿し、「自動車であれソーシャルメディアであれ、欧州で事業を展開する企業は株式保有状況にかかわらず、我々の規則を順守する必要がある」と述べ、「マスク氏もこの点を熟知している」と付け加えけん制した。

違法コンテンツへの対応を義務化

欧州委員会は2022年4月23日、巨大IT(情報技術)企業に違法コンテンツなどへの対応を強化するよう義務づける「デジタルサービス法案(DSA)」で、欧州議会などと合意したと明らかにした。違法コンテンツの削除を義務づけるほか、オンライン広告についても規制を課すものだ。

例えば、児童への性的虐待などの違法コンテンツやヘイトスピーチ(憎悪表現)、偽情報、違法商品・サービスなどの速やかな削除を義務づける。また性別や人種、宗教などの個人情報を基にしたターゲティング広告を禁じる。子供を対象にしたターゲティング広告も禁止する。違反した場合は、世界年間売上高の最大6%の罰金を科される可能性がある。今後、欧州議会と加盟国による最終合意を経て、早ければ年内に施行される見通しだ。

ツイッター広告事業、ボイコットに直面か

一方、「ツイッターをサービス開始当時のような自由な言論空間に戻そうとするマスク氏の試みを難しくするのは、EU規制当局だけではない」とウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。今後、広告主や利用者、議員、活動家など様々な関係者が圧力をかけるという。

例えば広告についてCNBCは「マスク氏が今後言論の自由に重きを置き、コンテンツ管理を緩めれば、広告主はツイッターから離れていく」と報じている。企業は自社の広告が誤情報やヘイトスピーチなどのコンテンツの前後に表示されることを嫌う。米JMP証券は、広告主がツイッターから米メタ(旧フェイスブック)や米スナップ、TikTokなどのサービスに流れていく可能性があると指摘している。

ツイッターの21年10〜12月期の広告売上高は14億1000万ドル(約1800億円)で、全売上高15億7000万ドル(約2000億円)の90%を占めた。広告離れは同社の収益構造を根底から破壊するという。

過去にも例がある。20年には、フェイスブックが問題のあるコンテンツを放置していたとして、大規模な広告ボイコット運動が起きた。同年5月に米ミネアポリスで黒人男性が警官に殺害された事件を受け、人種や民族の差別や憎悪を助長する投稿を放置しているとして同社への批判が高まったのだ。

最も問題視されたのはトランプ前米大統領の投稿に対する対応だった。死亡事件をきっかけに全米各地で大規模な抗議デモが起きたが、これに対しトランプ氏は「略奪が始まれば、銃撃も始まる」と書き込んだ。当時、表現の自由を重視する方針を示していたフェイスブックはこの投稿を容認した。最終的に1100社以上がフェイスブックへの広告出稿を停止した。

CNBCによると、17年には米グーグル傘下の動画共有サービスYouTube(ユーチューブ)で、暴力的な動画に広告が挿入されたとして、米コカ・コーラや米マイクロソフトなどが広告出稿を停止した。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年4月28日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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