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メタ、「プーチン大統領の死を求める表現」一転禁止 ロシアへの暴力表現、一部容認を撤回

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

ロシアのプーチン大統領らの死を求める表現をSNS(交流サイト)上で一部容認していた米メタ(旧フェイスブック)が、このルールを撤回したと、ロイター通信米CNBCなどが今年3月に報じた。

プーチン大統領暗殺呼び掛け、容認せず

ロイターはそれ以前の報道で、メタが暴力的な内容の投稿に関するルールをウクライナや周辺国で一時的に緩和すると伝えた。例えば「ロシアの侵略者に死を」といった投稿を容認するというものだった。

メタはその理由として「ロシア軍に抵抗するウクライナの人々の発言を違反と認定して従来のルールで排除すれば、同国民の言論の自由が奪われる」と説明した。

そのうえで、一時的な措置として、プーチン大統領のほか、ロシアと同盟のベラルーシのルカシェンコ大統領に対する暴力的な投稿を認めた。

一方で、一般市民をターゲットとする暴力的な発言は認めないとし、指導者の死を求める発言であっても場所や時間を指定することは違反になるとした。

しかし、この措置が暴力を助長するとして批判の声が上がった。CNBCによると、メタは3月13日「プーチン大統領や他の国家指導者の暗殺を求める投稿は認めない」と説明。メタはまた、「先に報道されたヘイトスピーチ(憎悪表現)ルールの一時的な緩和は、ウクライナのユーザーによる投稿のみを対象とし、ロシアの軍事侵攻に関する文脈でのみ適用される」と釈明した。

侵攻に対する自己防衛の表現、ウクライナのみ容認

メタの国際渉外部門担当社長であるニック・クレッグ氏はその後の社内投稿で、「ロシア人一般に対する暴力を容認するものとして解釈されるべきではない。このことを明確にしておく」と述べ、さらに「国家指導者の暗殺を呼びかける投稿は許可しない」と強調した。「私たちの方針は、自国への軍事侵攻に対する自己防衛の表現として、人々の言論の権利を保護することに焦点が置かれている」とも述べた。

同氏によると、ヘイトスピーチ規制の緩和はウクライナのみに適用するもので、ロシアの人々に関する限りルールは従来通りだという。同氏は「反露表現のほか、ロシア人に対するいかなる種類の差別、嫌がらせ、暴力を容認しない」と付け加えた。

露政府、フェイスブックとインスタグラムを遮断

ロシア政府は3月中旬までに、メタのコンテンツポリシーに関する判断を理由にフェイスブックと写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」を同国内で遮断する措置を取った。

メタは2月下旬、欧州連合(EU)域内でRT(ロシア・トゥデー)やスプートニクなどのロシア政府系メディアへのアクセスを制限すると明らかにした。フェイスブックで投稿内容のファクトチェックを行い、問題のあるものに注記をつけたほか、収益化を阻止するために政府系メディアによる広告出稿を禁止した。メタは全世界でロシア政府系メディアのコンテンツの表示順位を下げる措置も取った。

そして、「プーチン大統領の死を求める投稿」の容認があった。ロイターによると、メタによるこれら一連の方針転換がロシア政府の反発を招いた。ロシアの司法当局はメタを「過激派組織」と認定し、ロシアでの活動を禁止するよう裁判所に申し立て、刑事捜査に着手した(ロイターの報道)。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年3月17日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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