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自動運転Appleカー “2025年発売”報道で市場騒然 ハンドルやペダルのない完全自律走行車

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
画像出典:米CNBC

米アップルが完全自動運転に対応する電気自動車(EV)を早ければ2025年にも発売すると米ブルームバーグ通信が報じ、同社の株価が上昇した。21年11月18日の米国市場で前日終値に比べ3%高で取引を終えた。翌19日には前日比1.7%高の160.55ドルとなり、引き続き過去最高値を更新した(米CNBCの記事)。

人の操作不要の完全自律走行車に注力

ブルームバーグによると、アップルの自動車開発チームは過去数年、自動運転について2つのアプローチを探究してきた。1つは、ハンドル操作と速度操作に焦点を絞った限定的な自動運転車。もう1つは人間による操作を一切必要としない完全自律走行車。

同社では、腕時計端末「Apple Watch」のソフトウエア担当幹部ケビン・リンチ氏が自動運転開発プロジェクトを統括することになったが、同氏指揮の下、技術者は後者のアプローチに集中して開発に取り組んでいるという。

アップルは4年後に発売することを目標としている。一部の技術者がこれまで考えていた5〜7年後というスケジュールを前倒しした。ただ計画は流動的で、25年という目標を達成できない場合、発売時期を遅らす可能性がある。また、まず最初に機能を限定したモデルを市場投入する可能性もあるとブルームバーグは報じている。

ブルームバーグによると、アップルが理想とする自動運転車は、ハンドルやアクセルなどのペダル類を備えないデザインで、搭乗者はリムジンのように向かい合って座るという。ただし、緊急時に搭乗者が運転操作を行えるようにする機能の導入も検討しているとする。

事情に詳しい関係者によると、アップルは最近、自動運転システムの開発で重要な節目に達した。同社は、自動運転車の第1世代モデル向けプロセッサーの開発で主要な作業の多くを完了したと考えているという。このプロセッサーは、自動車開発チームではなく、スマホ「iPhone」やタブレット「iPad」、パソコン「Mac」などのプロセッサーを開発した技術者グループが設計したという。

アップルカー巡る様々な報道、「計画は存在する」

アップルは厳格な秘密主義で知られ、製品計画の報道に関してコメントしない企業だ。今回のブルームバーグの報道についても、広報担当者はコメントを控えている。ただ、ティム・クックCEO(最高経営責任者)が同社のEV、いわゆる「アップルカー」を示唆したと報じられたり、韓国・現代自動車との交渉が報じられたりし、「計画は存在する」と受け止められている。

米CNBCや米ウォール・ストリート・ジャーナルは21年2月、現代自動車の系列自動車メーカー韓国・起亜に生産委託する交渉がまとまりつつあると報じた。起亜が米ジョージア州に持つ完成車工場で24年にも生産を始め、初年で最大10万台を生産する可能性があると、関係者は話した。

21年4月には韓国の英字紙コリア・タイムズが、アップルと韓国LG電子関連会社によるEVの生産委託交渉が合意間近だと報じた。またロイターは21年6月にアップルが中国の電池メーカー大手、寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)とEV用車載電池の調達に向けて初期段階の協議を進めていると報じた

紆余曲折の「タイタン・プロジェクト」

アップルは14年に「タイタン・プロジェクト」と呼ばれる自動運転開発の取り組みを開始したとされる。同プロジェクトは一時、膨大な数の人員と費用を投じて技術開発に取り組んでいたものの、その後曲折があったとも言われている。

18年には同社の元ハードウェア技術者で、米EVメーカーのテスラに移籍していたダグ・フィールド氏を呼び戻し、タイタン・プロジェクトの責任者に任命した。今回のブルームバーグの報道によると、フィールド氏は21年9月にアップルを去り、米フォード・モーターに移籍した。これに伴い、前述したApple Watchのソフトウエア担当幹部がフィールド氏の後任に就いた。

アップルは最近多方面から技術者を雇っているという。テスラやスウェーデンのボルボ・カーズ、独ダイムラーのダイムラー・トラック、米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の自動運転技術会社クルーズなどから、自動運転ソフトウエアや自動車ハードウエア、バッテリー、センサー、自動運転安全システムなどの技術者を引き抜いているとブルームバーグは報じている。

  • (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年11月24日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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