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マイクロソフトとグーグルの「口撃」激化、互いの商慣行巡り

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
米下院公聴会で証言するマイクロソフトのブラッド・スミス社長(写真:ロイター/アフロ)

米マイクロソフト(MS)と米グーグルが互いの商慣行を非難し、激しく「口撃」し合っていると、米CNBC米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。

MS「グーグルは報道機関の利益を吸い上げている」

マイクロソフトのブラッド・スミス社長は、米下院司法委員会の反トラスト法・商法・行政法小委員会が2021年3月12日に開いた公聴会での証言で、「グーグルは報道機関を自社サービスに依存させる一方、報道機関のニュース記事を使って利用者をつなぎとめ、利益を上げている」と批判した。

「グーグルのサービスが利用者を報道機関のサイトに誘導していることは事実だが、グーグルが利益のほとんどを吸い上げているため、報道機関は収益化が困難になっている」と述べた。

同氏は、米国の世論調査機関、ピュー・リサーチセンターのデータを引用し、2005年に494億ドル(約5兆3800億円)あった新聞広告収入は18年に143億ドル(約1兆5600億円)に激減したと指摘。「グーグルの広告収入は同じ期間に61億ドル(約6600億円)から1160億ドル(約12兆6300億円)に増えた」とし、「これは単なる偶然ではない」と述べた。

グーグル「MSは20年前と同じ手法で競合を攻撃」

グーグルは反論している。同社の国際問題担当ケント・ウォーカー上級副社長は声明で「グーグルとマイクロソフトはクラウドサービスや生産性アプリ、ビデオ会議、電子メールなどの分野で競合している」としたうえで、「競争が激化する中、残念ながらマイクロソフトは20年前と同じ手法で競合を攻撃している。マイクロソフトの主張は利己的で、オープンな規格のウェブを破壊しようとしている。当社と報道機関の関係に関する同社の主張は明らかに間違っている」と批判した。

グーグルと親会社アルファベットのスンダー・ピチャイCEO
グーグルと親会社アルファベットのスンダー・ピチャイCEO写真:ロイター/アフロ

米司法省は1998年、マイクロソフトがオペレーティング・システム(OS)の独占的地位を利用して、自社ウェブブラウザー「インターネット・エクスプローラー」を標準ブラウザーとして搭載したり、インターネットサービスプロバイダーと排他的契約を結んだりし、不当に競争を阻害したとして同社を反トラスト法違反で提訴した。

また、マイクロソフトは2012年に「Scroogled」と呼ぶグーグルを攻撃対象にした広告キャンペーンを展開した。

グーグルのウォーカー上級副社長は、これらマイクロソフトの過去の行為に触れ、今回の証言は昔を思い出させる攻撃であり、お得意の作戦がまた始まったと批判した。最近は、マイクロソフトのメールソフトを標的にした大規模なサイバー攻撃があった。グーグルは、「今回の証言はこの騒動から注意をそらす狙いもある」と述べた。

グーグルとMS、記事対価巡り豪州で火花

グーグルとマイクロソフトは報道機関のニュース記事を巡ってオーストラリアでも対立した。豪政府は20年12月、グーグルや米フェイスブックを念頭に、IT大手に対し記事使用料の支払いを義務付ける法案を議会に提出した。

これにグーグルとフェイスブックが反発。グーグルのオーストラリア・ニュージーランド担当幹部メル・シルバ氏は21年1月22日、豪議会の委員会に出席し、「法が成立した場合、グーグルは検索サービスをオーストラリアでやめざるを得なくなる」と述べた。

これに対し、マイクロソフトのブラッド・スミス社長は21年2月3日に声明を出し、豪法案を支持する立場を表明。

「他のテクノロジー企業は時に豪市場から撤退すると脅すかもしれないが、マイクロソフトは決してそのような脅迫はしない」と述べた。そのうえで、自社の検索サービス「Bing」を競合サービスに匹敵するものにするため、さらなる投資を行うと述べた。

グーグルの現状、かつてのMS

今はグーグルがかつてのマイクロソフトのような状況に置かれている。グーグルは米国の連邦政府と州政府から計3件の反トラスト訴訟を提起されている。

バイデン米大統領
バイデン米大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

司法省は20年10月20日、11州の司法長官とともにグーグルを提訴した。この訴訟には後にカリフォルニア州などの3州が原告団に加わった。

同年12月16日にはテキサス州など10州の司法長官が同社を提訴。ロイターによると、こちらはその後、計15州・地域が原告となった。

また、同12月17日にはコロラド州など38州・地域の司法長官がグーグルを提訴した。

GAFA批判の反トラスト専門家2人起用

バイデン米大統領は21年3月22日、米連邦取引委員会(FTC)の委員に米コロンビア大法科大学院のリナ・カーン准教授を指名すると発表した。

カーン氏は反トラスト法・競争法の専門家。グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップルのいわゆる「GAFA」などのテクノロジー大手の商慣行を批判する活動家に支持されている。

バイデン大統領は21年3月5日、米国家経済会議(NEC)でテクノロジー・競争政策を担当する大統領特別補佐官にコロンビア大法科大学院のティム・ウー教授を起用した。ウー氏は市場競争の再活性化のために巨大テクノロジー企業を解体すべきだと論ずる人物だ。

米政治専門サイトのポリティコCNBCは、バイデン政権が著名な2人を起用し、テクノロジー大手に対する規制強化の意向を示したようだと報じた。

  • (このコラムは「JBpress」2021年3月16日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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