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テック大手が目指す脱炭素化、「ニュートラル」「ゼロ」「ネガティブ」「キャプチャー」を知る

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(提供:NASA/ロイター/アフロ)

先ごろロイターは、三菱商事子会社の蘭電力会社エネコと英蘭石油大手のロイヤル・ダッチ・シェルが、米アマゾン・ドット・コムに再生可能エネルギーによる電力を供給すると報じた

エネコとシェルはオランダで出力計75万9000キロワットの洋上風力発電所を建設する計画で、2023年に稼働する予定。このうち、エネコは13万キロワット分を、シェルは25万キロワット分(計38万キロワット)をアマゾンに供給するという。

三菱商事は20年3月に中部電力とともに41億ユーロ(約5300億円)を投じてエネコを買収した。日本の商社やシェルなどの石油大手は、クリーンエネルギーへの取り組みを強化するとともに、石炭・石油などの化石燃料からの脱却を進めている。

40年までに実質ゼロ、アマゾンやMSなど53社参加

一方、年間100億個もの荷物を配達し、巨大なデータセンター抱えるアマゾンは、環境活動家や従業員から対策を強化するよう求められている。

こうした中、同社は、物流事業からの二酸化炭素(CO2)排出を相殺して実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すプロジェクト「シップメント・ゼロ」を立ち上げており、30年までに50%を達成する目標を掲げている。

アマゾンは19年9月に、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の前事務局長、クリスティアナ・フィゲレス氏が創設した英グローバル・オプティミズムとともに、気候変動対策に関する誓約「クライメート・プレッジ」を発表。国際的な枠組み「パリ協定」の目標年よりも10年早い40年までにカーボンニュートラルを達成すると約束している。

画像出典:Amazon.com
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20年12月9日、アマゾンは、この誓約に米マイクロソフトや、英蘭食品・日用品大手ユニリーバ、欧州の飲料大手コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズ、フィンランドの代替航空燃料大手ネステなど13社が署名したと明らかにした。

すでに米配車サービスのウーバーテクノロジーや米格安航空会社(LCC)のジェットブルー航空、米電気自動車(EV)メーカーのリビアン・オートモーティブも署名しており、参加企業はアマゾンも含め、計53社になる

アップルはすでに自社内カーボンニュートラル達成

米テクノロジー大手のリーダーは気候変動対策に積極的な姿勢を示している。

米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は20年12月、オンラインで開催された国連などの首脳級会合「気候野心サミット」に参加し、より厳しい目標を実行するよう呼びかけた。同氏は「21年を危機から脱する年とするため、世界の企業や政府に対し、できることをすべて行うよう求める」と述べた(ロイターの記事)。 

アップルでは、オフィスや直営店、データセンターをすべて再生可能エネルギーで稼働させており、自社の企業活動ではすでにカーボンニュートラルを達成している。今後はこの取り組みを広げ、30年までに製造サプライチェーンや製品ライフサイクルの全般でカーボンニュートラルの達成を目指している。

グーグルの「カーボンゼロ」とMSの「カーボンネガティブ」

米グーグルは20年9月、30年までに世界中のデータセンターとオフィスでCO2排出量を、相殺ではなく純然たるゼロにする「カーボンゼロ」を発表した。

マイクロソフトは20年1月、30年までにCO2排出を実質マイナスにする「カーボンネガティブ」を目指すと発表。50年までに1975年の創業以降の排出量に相当するCO2を削減するとしており、より野心的な目標を掲げた。

画像出典:Microsoft
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テスラCEOやアマゾンCEOが私財投じ技術開発支援

テクノロジー大手の経営者が私財を投じて支援する動きも出ている。

米CNBCは21年2月8日、EV大手テスラのイーロン・マスクCEOがCO2削減技術のコンテストに総額1億ドル(約110億円)の賞金を提供すると報じた。

コンテストを主催する米NPO「Xプライズ財団」によると、まず、21年4月22日のアースデー(地球の日)にガイドラインを公表し、参加登録を受け付ける。1年半後に優秀な15チームを選び、それぞれに100万ドルを提供。同時に学生の25チームを選び、それぞれに20万ドルを提供する。

各チームはその後も開発を続け、25年のアースデーに最優秀チームを決める。残りの賞金8000万ドルは、最優秀(5000万ドル)、2位(2000万ドル)、3位(1000万ドル)に振り分けるとしている。

画像出典:XPRIZE Foundation
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これは、排出源や空気中からCO2を取り込んで、再利用したり隔離したりする技術。「カーボン・キャプチャー」や「二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)」と呼ばれている。

一方、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは20年に気候変動対策基金「ベゾス・アース・ファンド」を創設した。環境問題に取り組む科学者や活動家、非政府組織(NGO)などに100億ドル(約1兆900億円)を拠出するというものだ。

同年11月にはその第1弾として、NPOなど16団体に計7億9100万ドル(約870億円)を投資すると明らかにした。米環境保護NPOのザ・ネイチャー・コンサーバンシーや自然資源防衛協議会(NRDC)など5団体にそれぞれ1億ドルを、他の11団体にそれぞれ500万〜5000万ドルを投じるとしている。

  • (このコラムは「JBpress」2021年2月10日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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