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アップルの方針転換でネット広告大打撃、「iPhoneの最新OSで広告配信無力に」とフェイスブック

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:吉澤菜穂/アフロ)

 米フェイスブックは今年8月、同社がモバイルアプリ業者に提供している広告配信サービスが、米アップルの方針転換によって機能しなくなる恐れがあるとの見解を示した。

アップル、個人情報保護を厳格化

 フェイスブックは「オーディエンスネットワーク」と呼ぶサービスで提携業者のモバイルアプリに広告を配信している。

 フェイスブックが収集した利用者情報に基づき、業者はアプリの個々の利用者に最適化された広告配信を受けられる。このとき重要になるのが、対象となる利用者を絞り込むターゲティング機能。

 しかし、アップルはかねて個人情報保護の姿勢を鮮明にしている。「iOS 14」や「iPadOS 14」といった同社の最新モバイルOSでは広告用の端末識別子の取得に際し、アプリごとに利用者の同意が必要になる。

 これにより、今後、iPhoneなどではこの識別子の取得率が大幅に低下すると予想される。これに伴い、フェイスブックの広告配信はiPhone利用者の対象絞り込み精度が著しく低下する。結果として、アプリ業者の広告収入が減少する。

 アップルは9月3日、この広告制限について、2021年初頭まで実施しないと明らかにした。その理由は「開発者に変更に必要な時間を与えるため」というもの。

 だが、これはあくまで時限措置。21年初頭以降、アプリ業者はこれまでのような広告収入を得られなくなる。

「広告収入5割以上減少する恐れ」

 フェイスブックはその影響について「現時点で正確に測定することは困難だが、一般的にターゲティング機能が失われた場合、アプリ業者の広告収入は5割以上減少する。iOS 14ではそれ以上になる可能性がある」と説明している

 また、同社はブログで、「iOS 14では当社の広告配信は無力になり、提供する意味がなくなる可能性がある」とも述べている。

 一方、フェイスブックのアプリについては、同社が自社サービスの利用者から直接収集した情報に基づき広告を配信しているため、影響は小さいという。

 フェイスブックはアプリ業者向け広告配信事業の規模を明らかにしていないが、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、推計年間売上高は約34億ドル(約3600億円)と報じている。年間約700億ドル(約7兆3600億円)に上る同社全広告売上高の5%未満だという。

 ただ、フェイスブックの各種サービスも、料理宅配やゲームなどの他社アプリが収集した利用者情報をもらっている。

 今後これらの情報を得られなければ、同社の広告事業にも影響が及ぶと同紙は指摘している。もし、広告効果が低下すれば、企業は同社への広告予算を減らすことになり、フェイスブックの事業成長は抑制されるという。

異なるビジネスモデルで異なる立場

 ビジネスモデルが異なるアップルとフェイスブックは、利用者情報の取り扱いで反対の立場を取ると、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

 ハードウエアの製造・販売で収益を得るアップルは、個人情報保護の重要性を強調。自社製品のデータ保護機能を強化し、他のメーカーとの差異化を図る一方でネット企業による個人データ収集行為を批判している。

 これに対し、ネット広告が収益のほぼ100%を占めるフェイスブックは、自由な情報の行き来を提唱し、アップルの排他的プラットフォームを批判している。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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