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アマゾン、新型コロナで「プライムデー」延期か、物流逼迫で7月の開催困難に

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 先ごろ、米アマゾン・ドット・コムが会員向けの年次大型セール「プライムデー」の延期を検討していると、ロイターが報じた

 ロイターが入手したアマゾンの幹部会議の文書で分かったという。毎年7月に開催しているが、今年は8月以降になる見通しだとしている。

昨年の世界総販売額7600億円

 プライムデーは売り上げが落ち込む夏場の販売促進策として2015年に始まった。当初は24時間のイベントだったが、その後時間を拡大し、昨年は48時間開催。開催国は、米国やカナダ、英国、ドイツ、フランス、インド、日本、中国、オーストラリアなどの18カ国に拡大した。

 アマゾンによると昨年は、2日間の売上高が「ブラックフライデー」(年末商戦の初日)と「サイバーマンデー」(翌月曜日)のそれまでの販売実績を上回った。

 このイベントは有料会員「プライム」の新規加入者獲得にも貢献しており、昨年は初日の申込みが1日の件数として過去最多となり、翌日もそれに次ぐ件数があった。また、期間中、世界で1億7500万個の商品を販売したという。

 アマゾンは毎年このセールの売上高など、業績結果について具体的なことを明らかにしない。しかし、ネット通販業界の専門誌インターネットリテイラーは、昨年の世界総販売額が前年比70%増の71億6000万ドル(約7600億円)に達したと、推計している。

ネット通販需要急増で物流に行き詰まり

 米ニュースサイトのビジネスインサイダーによると、アマゾンは例年通りプライムデーを7月に開催する予定で準備し、出品者には参加登録を促し、商品をアマゾンに出荷するよう指示していた。

 しかし、今は新型コロナウイルス感染拡大によるネット通販の需要急増で、アマゾンの物流が逼迫している。同社はこの問題を解消するため、食料品や日用品、医療・衛生用品といった必需品を優先して入荷・配送する措置を取っている。

 商品の保管と配送などの業務を代行する出品者向けのサービス「フルフィルメント・バイ・アマゾン」では、日用品以外の商品の入荷を一時的に受け入れない措置もとった。先ごろは、インドやイタリア、フランスで不要不急品の販売を一時中止したとも報じられた。

安全対策強化求め倉庫従業員が抗議

 また、物流施設で従業員に新型コロナウイルスの陽性が確認されたことを受け、一部の従業員が、職場環境の安全対策や待遇改善を求める抗議活動を始めた。

 こうした状況で予定通りに大規模セールを開催すれば、アマゾンの物流態勢に支障をきたすほか、従業員の反発がさらに高まり、業務に大きなリスクをもたらすと、ビジネスインサイダーは伝えている。

 ロイターによると、アマゾンの幹部は、プライムデーの延期による損失が1億〜3億ドル(約110億〜320億円)に上る可能性があるとみている。延期することにより、AIスピーカー「エコー」などの製品に過剰在庫が発生する。これらを処分するために値引き販売を余儀なくされるからだという。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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