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アマゾンの顔認識、人の感情を読み取る技術が向上 新たに「恐れ」の検出可能に

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
写真出典: Amazon.com

 米アマゾン・ドット・コムは先ごろ、クラウドサービス事業の一環として開発と販売を行っている「レコグニション(Rekognition)」について、分析機能の精度と機能が向上したことを明らかにした

「性別」「年齢範囲」の精度を向上

 これは、静止画像や動画を分析して人物の顔を認識・検出する技術。アマゾンはクラウドサービスの1つとして開発者らに提供している。

 この技術では検出した顔をもとに、さまざまな種類のデータを生成することができる。例えば「性別」や「年齢範囲」「感情」「“笑顔”などの表情属性」「顔のランドマーク」(各部位の位置データ)などだ。

 アマゾンはこのほど、これらの技術を向上させた。とりわけ性別と年齢範囲の精度を高めたと説明している。このうち、年齢の推定では、すべての年齢層で、より狭い範囲に絞り込むことが可能になったという。

8つの感情を検出

 また、これまで提供していた7つの感情分類の精度も向上させた。7つとは「幸せ」「悲しみ」「怒り」「驚き」「嫌気・嫌悪」「落ち着き」「困惑」。今回、新たに「恐れ・不安」も検出できるようになったとしている。

 人間の感情をロボットが理解する技術は長い間、SF小説の域を出ないものと考えられてきた。しかしマシンラーニング(機械学習)や画像・映像・音声認識の進歩により、技術は現実のものになりつつある。

 現在は米マイクロソフトや米グーグル、米IBMといった他のテクノロジー企業も、画像や音声データから人間の感情の状態を導き出す技術の研究開発を行っている。

国や文化で異なる感情表現

 しかし、今の技術には不完全な点が多くあると指摘する専門家もいると米CNBCは報じている。顔の表情と感情には関連性があることは分かっているものの、人々の感情の伝え方は国や文化、状況によって異なると指摘している。

 似通った表情であっても、それらは必ずしもある1つの感情を示すとは限らない。笑顔だからといって「幸せ」と断定することはできず、しかめっ面を「怒り」の感情と言い切ることもできないと、専門家は話している。

テクノロジーの発展と人権

 アマゾンのクラウドサービスを利用する開発者が、この技術を使って具体的にどのようなサービスを提供しようと考えているのかは分からない。ただ、アマゾンについては利用者の感情を理解できる、より人間に近いAIアシスタントを開発していると伝えられている。

 一方で、こうした技術が人権侵害やプライバシー侵害を助長するといった懸念の声が上がっている。人権擁護団「アメリカ自由人権協会(ACLU)」は昨年、フロリダ州の警察がアマゾンのレコグニションを利用していると非難していた。同社が米移民税関捜査局(ICE)にレコグニションの売り込みをかけていることを問題視する議員もいる。

 アマゾンのような顔認識技術の提唱者は、「犯罪容疑者や行方不明児童などの特定を容易にすることは公共の利益につながる」と主張する。一方で、人権擁護団体などは、「技術がいとも簡単に乱用され、市民のプライバシーや特定の人種や市民運動家などの言論の自由と活動の権利を侵害する」と主張している。

  • (このコラムは「JBpress」2019年8月15日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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