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ネット広告市場に忍び寄るアマゾンの脅威

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)(写真:ロイター/アフロ)

 インターネット広告の市場では、検索最大手の米グーグルと、ソーシャルメディア最大手の米フェイスブックが、世界における全広告収入の大半を稼ぎ出し、この市場を支配している。

 しかし、米ウォールストリート・ジャーナルの報道によると、この市場では、eコマース世界最大手の米アマゾン・ドットコムが、着実にその広告収入を伸ばしている。

 将来、アマゾンは、グーグルとフェイスブックにとっての脅威になりそうだという。

アマゾンのネット広告収入、すでにツイッターを超える

 米金融大手JPモルガンの推計によると、2017年における企業別のネット広告収入は、グーグルが730億ドルで、首位。

 これにフェイスブックが400億ドルで次ぎ、このあと、米オース(米AOLと米ヤフーの親会社)の53億ドル、アマゾンの28億ドルと続く。

 アマゾンにおけるネット広告事業の規模は、グーグルやフェイスブックのそれに比べ、はるかに小さい。

 しかし、同社の広告収入は、すでに米ツイッター(20億ドル)と米スナップ(8億ドル)を上回っている。

 今年(2018年)のアマゾンの広告収入は45億ドル、来年は66億ドル超に拡大すると見られており、まもなく同社は、3位のオースを追い抜く可能性があると、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

グーグルやフェイスブックが入手できないデータ

 アマゾンはeコマースサイトで、「スポンサーリンク」や「スポンサープロダクト」といった広告商品を展開している。

 これらはいずれも、利用者が入力した検索キーワードや閲覧内容に関連する、スポンサー企業の商品を検索結果ページや商品詳細ページに表示するもので、同社はスポンサーから広告料を受け取っている。

 ウォールストリート・ジャーナルによると、アマゾンは独自のデータで、これら広告サービスを展開できることに強みがある。独自のデータとは、顧客の商品検索データや購買データである。

 グーグルは、アマゾンに負けない膨大な量の検索データやウェブ閲覧データを持つ。

 フェイスブックは、ソーシャルメディアにおける20億人超に上る利用者データと、ウェブサイト閲覧履歴や商品購買履歴などとを関連付けた、広告を展開している。

 しかし、当然ながら、グーグルやフェイスブックは、アマゾンのデータにアクセスできない。

 そうした中、最近は、アマゾンのeコマースサイト内で検索を行い、買い物を済ませるという、すべてをアマゾン内で完結する消費者が増えているという。

 この状況は、次のようなことをもたらすという。

 「米国小売り市場の規模は5兆ドル。この市場で、アマゾンの市場シェアが1ポイント拡大するごとに、グーグルやフェイスブックが広告事業のよりどころとするデータが、500億ドル分、2社のシステムから消える」(ウォールストリート・ジャーナル)

小売り事業を拡大するアマゾン、音声広告事業も立ち上げか

 アマゾンは昨年、米国やカナダ、英国に約460店舗を持つ、高級スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ・マーケット」を買収した。

 こうして小売り事業の拡大を続けるアマゾンは、広告分野で、グーグルやフェイスブックのビジネスを脅かす、ということのようだ。

 なお、アマゾンのネット広告事業については、先ごろ、同社がAI(人工知能)を使った音声アシスタントサービス「Alexa」に、広告を導入することを検討していると伝えられた。

 米CNBCによると、同社はこれに関し、米日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブルやクロロックスなどの数社と協議している。

 アマゾンの音声広告事業は、早ければ今年にも始まる可能性があると、事情に詳しい関係者は話している。

(このコラムは「JBpress」2018年1月30日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報などを加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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