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アップルはなぜソフトウエアを無料化したのか? 古いMacに最新OS、新規購入者に最新アプリ

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米アップルが22日に発表した新型アイパッド(iPad)は、様々なメディアがこぞって取り上げ、大きな話題となったが、海外ではIT関連のメディアを中心に、この日同時に発表されたソフトウエアの無料化に注目が集まった。

「ソフトに数百ドルを出す時代は終わった」

アップルは22日、パソコン「マック」用の基本ソフト(OS)の最新版「OS X Mavericks(マーベリックス)」を同日からダウンロード配信すると発表した。

アップグレード料金は無料で、しかも3世代前のOSからも刷新でき、対応マシンには2007年に発売した古いマックも含まれている。

マック用のOSと言えば、かつてパッケージ版として130ドル程度で販売されていたが、ここ最近はダウンロード配信に切り替えたことで、20ドル程度と安価になっていた。

これが今回の新版から無料になったというわけだ。

またアップルは、新規にマックを購入した利用者に対し、オフィス関連ソフトウエア群「iWork」とデジタルライフ関連ソフトウエア群「iLife」を無料で提供することも明らかにした。

このiWorkには、ワープロの「Pages」、表計算の「Numbers」、プレゼンテーションの「Keynote」があり、iLifeには、写真管理の「iPhoto」、動画編集の「iMovie」、音楽編集の「GarageBand」がある。

アップルは9月からこのうちGarageBandを除くすべてをアイフォーンやアイパッドなどiOS端末の新規購入者に無料で提供していたが、今回、マック版も新規購入者を対象に無料化した。さらにGarageBandはマック版とiOS版ともに、最新OSのマーベリックスと iOS 7 のすべての利用者に無料で提供することにした。

こうした施策について、アップルのシニアバイスプレジデント、クレイグ・フェデリギ氏は発表会で「コンピューターを活用するために数百ドルもお金を出す時代は終わった」と述べ、今後2つの主要ソフトウエア群で料金を取らないという同社の方針を明らかにした。

このことはメディアが驚きを持って伝えた。その多くは米マイクロソフトのビジネスモデルを揺るがしかねないというものだ。

マイクロソフトの幹部は翌日、公式ブログに声明を出し、自社のタブレット「サーフェス(Surface)」にも「オフィス」を無料で搭載しており、「(アップルの無料化は)大したことではない」などと反論。これがちょっとした話題となった。

目的はOSとアプリの最新化

そうした中、米ウォールストリート・ジャーナルの記事は、今回のソフトウエアの無料化はマイクロソフトへの攻撃というよりも、OSの分散化を食い止めるというアップルの戦略だと伝えている。

それによると、現在世界で利用されているマックには大まかに分け、1世代前のOS「Mountain Lion(v10.8)」、2世代前の「Lion(v10.7)」、3世代前の「Snow Leopard(v10.6)」の3つが搭載されている。

iOSでは、最新版の普及率が9割超であるのに対し、マックはOSのバージョンがまちまち。このことは、最新のクラウドサービスに対応したOSやアプリケーションを使っていない人がまだ多くいることを意味している。

そこでマックもiOS同様にソフトを無料化し、最新版の普及率を高めれば、多くの人にアップルのクラウドサービス「iCloud」を使ってもらえるようになるというのだ。

iCloudは、端末の垣根を越えて様々な書類やデータを同期できるため、顧客の利便性が高まる。こうしたクラウドサービスを中心としたハードウエアのエコシステム(生態系)で顧客を囲い込めば、将来長期にわたるアップル製品の購入につながると、ウォールストリート・ジャーナルは分析している。

JBpress:2013年10月25日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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