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アップル、新型iPhoneの2モデル戦略は失敗か? 廉価版「5c」、製造工場への発注を大幅削減

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

9月に販売を開始したばかりの新型アイフォーンの廉価モデル「5c」について、アップルがアジアの製造工場への発注量を減らしたと米ウォールストリート・ジャーナルなどの海外メディアが報じている。

報道によるとアップルは、5cの製造を請け負う台湾のペガトロン(和碩聯合科技)に対し、10〜12月期の生産台数を2割弱減らすように指示した。

また傘下に中国フォックスコン(富士康科技)を持つ台湾ホンハイ(鴻海精密工業)に対しては、3分の1減らすよう指示したという。

10〜12月期の発注、当初計画から25%減

ウォールストリート・ジャーナルによると、前者のペガトロンは5c全出荷台数の3分の2の組み立てを請け負っており、後者のホンハイはその残りを手がけているという。この報道が正しいとすれば、アップルは10〜12月期における5cの生産台数を当初予定から約25%削減することになる。

またウォールストリート・ジャーナルは事情に詳しい関係者の話として、ある部品供給業者が5cの部品を50%削減するようアップルから告げられたと伝えている。

その一方で、アップルは上位モデルの「5s」についてホンハイへの発注を増やしている。こうした発売直後の生産計画の変更についてアップルの狙いは定かではないが、同社は需要予測を見誤った可能性があるとウォールストリート・ジャーナルは指摘している。

アップルは先頃、新型アイフォーンについて発売後最初の3日間で販売台数が900万台を突破したと発表したが、その内訳は明らかにしていない。そうした中、アップルの米国や中国のオンラインストアでは、5cの出荷時期が「24時間以内」とあるのに対し、5sは「2〜3週間」となっており、5cは思ったほど売れていない可能性があると言われている。

前述のウォールストリート・ジャーナルの記事によると、米国のある小売店スタッフの推定では、5cと5sの販売比率は1対3。5cは十分な在庫があるが、5sはそれよりもはるかに少ないと、このスタッフは話しているという。

アップルが2つの新型アイフォーンを同時に発売するのはこれが初めて。当初は中国などの新興国市場向けに廉価モデルを用意し、韓国サムスン電子などのライバルからシェアを奪い返す狙いがあると見られていたが、アップルが選んだ道はそうではなかった。

5sとわずか100ドルの差、価格の見直し必要か?

米国では携帯電話会社との契約を結ばない場合、5cの16GBモデルは549ドルとなる。これに対し上位機種の5sは同じ容量のモデルが649ドルで、両者の差は100ドルしかない。

中国ではこれが、それぞれ約735ドル(4488元)と約866ドル(5288元)になり、米国に比べ割高の価格設定だ。つまり5cは新興国市場に向けた廉価モデルではなかったのだ。

そうした中、同時に販売している2世代前の「4S」は値頃感があり、一定の人気を保っている。一方で5cは基本的に1世代前の「5」 の本体デザインを変えた端末だ。

海外メディアの報道によると、消費者の目には指紋認証機能など最新技術を備えた5sが魅力的に映っている。もしこうした報道の通り、5cが本当に売れていないのであれば、この端末は機能と価格の点において、アイフォーン製品ラインアップの中で適切な位置付けにないということになる。

なお報道によると一部の通信事業者や小売店はすでに5cの値下げ販売を始めている。アップルも今後価格見直しの必要に迫られるのかもしれない。

JBpress:2013年10月18日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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