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「Androidをあらゆる機器に」 ゲーム機、腕時計、冷蔵庫の市場も狙うグーグルの野望

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

6月28日付の米ウォールストリート・ジャーナルの記事によると、米グーグルは同社のモバイル基本ソフト(OS)「アンドロイド(Android)」を、これまでのスマートフォンやタブレット端末といった領域を超えたあらゆる分野に浸透させたいと考えているという。それはゲーム機から腕時計型端末、パソコン、冷蔵庫までと多岐にわたるようだ。

同紙はこの記事で、グーグルが現在自社でアンドロイド搭載の(1)ゲーム機、(2)腕時計端末、(3)音楽や映画などをストリーミング配信するメディア機器を開発していると伝えている。

記事よると同社には「グーグルX」と呼ぶハードウエア製品の研究開発部門があり、ここで様々な機器を開発している。試作が終わって完成した製品はその後すぐに量産し、グーグルが自ら販売するという計画を立てている。グーグルは上記3つのうち少なくとも1つを今秋市場投入したい考えだという。

グーグル、アンドロイドの制限を緩和する方針に

そのグーグルの狙いはずばりアンドロイドの普及だ。

以前は、グーグルの検索サービスなどがあらかじめ組み込まれたアンドロイドの正式版をハードウエアメーカーが利用する際、グーグルはスマートフォンとタブレット端末に限定してアンドロイドの名称を使うことを許していた。

しかし同社はこうした互換性保証に関する規定を緩和するようになっており、今は機器のタイプに制限を加えない方針を示しているという。

例えば、先ごろ米ヒューレット・パッカード(HP)が同社初となるアンドロイド搭載一体型パソコン「HPスレート(Slate)21」を発表した。

またウーヤー(OUYA)という米国のベンチャー企業が先週、アンドロイド搭載の小型据え置きゲーム機を発売した。半導体メーカーの米エヌビディア(NVIDIA)も「シールド(SHIELD)」というゲーム機を発表している。

ウォールストリート・ジャーナルによると、アンドロイド搭載端末でグーグルの最大パートナー企業となっている韓国サムスン電子も腕時計型インターネット端末、いわゆるスマートウォッチを開発中だという。

このほか前述のHPでは、グーグルが社内で「Kリリース」と呼んでいる次期アンドロイドを搭載するノートパソコンを開発しているという。ウォールストリート・ジャーナルは事情に詳しい関係者の話として、HPの新しいパソコンはHPスレート21とは異なる試みとして開発されていると伝えている。

「Kリリース」で一挙に狙う、問題解決と普及拡大

そして今グーグルが注力しているのが、この秋にもリリース予定の「Kリリース」だ。

現在多くのスマートフォンに搭載されているアンドロイドは2011年に開発された旧バージョン。これは、アンドロイドの最新版が比較的最新の高性能端末とだけ相性がよく、新興国市場などで普及している低価格端末には旧バージョンのアンドロイドを使う必要があるからだ。

こうした複数のアンドロイドが世の中に存在することを「断片化」と呼び、これにより、アプリの開発者が自社のアプリをそれぞれに最適化しなければならないという困難な状況が生まれている。そこでグーグルはKリリースでアンドロイドを性能の低い端末でもうまく機能するよう改良している。

こうして見ると、グーグルは現在アンドロイドが抱える問題と、アンドロイドをあらゆる機器に搭載させるという同社の野望を一挙に実現したいと考えているようだ。

米メディア、「アップルも腕時計型端末を開発中」

一方で米メディアの報道によると、米アップルがこの秋にもアイフォーンの最新モデルや、新興国市場向け廉価版アイフォーンを市場投入すると見られている。

またアップルは、アイパッドの新モデル、そしてゲーム機の機能も備えた映像配信端末、さらに腕時計型端末も開発していると伝えられている。

これまでスマートフォンとタブレットの市場で激しい戦いを繰り広げてきたアンドロイドとアップルの「iOS」。両OSの戦いの場は今後、新たな市場に広がっていくのかもしれない。

JBpress:2013年7月2日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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