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世界PC出荷台数、従来予想をさらに下回る見通し「2015年にはタブレットがPC上回る」とIDCが予測

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米IDCが29日に公表した調査リポートが正しいとすれば、2013年はパソコン業界にとって大きな転換点となりそうだ。

同社の推計によると、今年の世界のパソコン出荷台数は3億2190万台で、前年から7.8%減少する見通し。3月初旬にIDCが公表していた従来予測では前年比1.3%減だったので、今回大きく下方修正したことになる。

もう高性能パソコンは要らない?

その理由として同社が挙げているのが1〜3月期の出荷台数。これが予想以上に大きく減少した。

またメーカー各社が「ウィンドウズ8」搭載の新型機でさまざまな形態のモデルを用意しており、その中にはタブレット端末に分類される製品も含まれている。これも要因の1つという。

形状がタブレット型でもウィンドウズ8を搭載していれば、それはパソコンではないかという意見も聞かれるところだが、IDCの定義によれば、ウィンドウズ8を搭載していても本体がスレート状(板状)で液晶画面サイズが7〜16インチであれば、タブレットという扱い。これは着脱式キーボードが付いていても同じとしている。

つまり米マイクロソフトの「サーフェス(Surface)RT」はタブレットになると同社は説明している。一方で中国レノボ・グループ(聯想集団)の「アイデアパッド・ヨガ(IdeaPad Yoga)」のような、ノート型にもタブレット型にもなるハイブリッド端末であってもキーボードが取り外せないものはパソコンに分類している。

いずれにせよ、利用者の間では今後、従来のノートパソコンのような高性能コンピューティング機器はあまり必要とされなくなるとIDCは見ている。

同社のアナリストによると、ウェブサイトやソーシャルメディア、電子メール、アプリといった用途では、それほど高い性能の機器や大容量のストレージが必要ないことに多くの利用者が気づき始めた。半面、バッテリーの持ち時間の長さや、起動時間の短さ、直感的なタッチ操作という点が重視されるようになり、利用者の関心はますますタブレットに寄せられるという。

今後人々がパソコンを使わなくなるというわけでは決してないが、パソコンの利用時間は減っており、多くの人はパソコンが必要な時、すでに持っている古いパソコンで済ませている。これが昨今の利用実態で、パソコンの新規購入が進まない理由だという。

タブレット、今年の成長率は58.7%、ノートを上回る見通し

これらの要素を考慮してIDCが予測した今年1年間のパソコン出荷台数は前年比7.8%減の3億2190万台。来年も前年比1.2%減とマイナス成長が続き、再来年の2015年に同1.4%増と、ようやくプラスに転じる。

これにより2017年の出荷台数は3億3340万台になるとIDCは予測している。ただしこれは昨年の3億4920万台や、ピークだった2011年の約3億6300万台を下回る。

一方で同日IDCが公表した別の調査リポートによると、今年のタブレット端末の世界出荷台数は2億2930万台となる見通しだ。これは昨年の1億4450万台から58.7%増と大きな伸び。

今年、タブレットの出荷台数はノートパソコンを上回り、2015年にはノートとデスクトップを合わせたパソコン全体をも上回ると同社は予測している。

こうして見ると、コンピューティング機器の市場はすでに大きく様変わりしていると言えそうだ。より大型化したスマートフォンや、小型化したタブレットが安価で手に入るようになり、人々は従来パソコンでやっていたようなことをこれらの端末で行っている。たまにしか使わないパソコンは、その買い替え周期がどんどん延びている。

IDCのアナリストは、「(こうした動きは)当初は単に不況時の1つの現象にすぎなかった。だが今では世界市場を大きく変えるにまで至った」と述べている。

つまり今は脚光を浴びているスマートフォンやタブレット端末でも、今後経済情勢が変化したり、新たな機器やサービスが登場したりすれば、いとも簡単に廃れていくということなのかもしれない。

JBpress:2013年5月30日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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