ウクライナへの軍事介入寸前に至っていたロシア

ロシアが軍事介入寸前に至っていた?

8月8日から8月9日の朝に掛けて、ロシアはウクライナへの軍事介入寸前にまで至っていたようだ。

もちろん、ロシアは認めていないが、8月初頭以降の状況を追っていくと、かなり緊迫した状況が発生していたことは明らかであると思われる。

まず8月6日、ポーランドのトゥスク首相が「ロシアによる軍事介入のリスクがここ数日高まっている」と指摘したのに続き、7日にもウクライナの首都キエフを訪問したラスムセンNATO事務総長が、ロシアが「平和維持」の名目で軍事介入を行う可能性があると述べた。この少し前から言われていたシナリオ(たとえば5日の拙稿を参照)が現実の懸念として急速に浮上してきたのである。

さらに同日、ロシア語インターネットで奇妙な情報が流布したのが注目される。ウラル地方のネット地方紙「URA.RU」などいくつかのマイナー情報源が、「7日夜にプーチン大統領が国民向けの緊急演説を行う」と報じたのである。結果的にこれについてはロシア大統領府が正式に否定し、誤報ということになったが、本当にただの誤報だったのか、実は何か重大発表を行おうとしていたのかは、今となっては分からない。

そして8日昼、プーチン大統領は安全保障会議を招集し、ウクライナ東部情勢について協議。ここでウクライナ東部が「人道危機」状況にあると結論された。ウクライナへの軍事介入が決定されたとすれば、この会議の席上においてであろう。

さらに同日夕刻、ニューヨークの国連本部ではロシアのチュルキン国連大使が安保理緊急会合を招集し、ウクライナへの人道援助を認めるよう要請した。ここで人道援助にお墨付きを得た上で、そのドサクサに紛れて「平和維持部隊」などの名目でロシア軍を投入する計画であったと思われる。

だが、おそらくはロシアの思惑を見抜いていた米国連代表はこれを拒否した。

赤十字の援助を装うも米欧が阻止

にも関わらず、ロシアは軍事介入を諦めなかったようだ。今度は赤十字の枠内における援助を名目として軍事介入しようとした、とウクライナ政府は主張している。

これについて同日深夜、ウクライナ大統領府のヴァレリー・チャールィ副長官はテレビで次のように述べた。

「ロシア側は数時間前、緊急事態へと繋がりかねず、脅威を悪化させる恐れのある主張を行おうと非常に真剣に計画していた」

「国際赤十字委員会との合意を盾に、ロシアの兵士や武器を載せた膨大な車列がウクライナ国境へ向けて移動していた。全面的な紛争を起こすために、平和維持部隊を伴って人道援助物資の隊列を侵入させるつもりだったに違いない」

要するに、赤十字の人道援助を警護するなどの名目で、「平和維持部隊(実態はロシア軍の戦闘部隊)」をウクライナ領内に侵入させようとしていた、というのがウクライナ側の主張のようだ。

結局、事態を重く見たポロシェンコ大統領が欧米諸国の指導者と協議し、ロシアのラヴロフ外相宛に「これ以上、車列を前進させるな」と申し入れたことで介入は回避されたという(BBCウクライナ語版によると、主に米国、英国、ドイツが制裁強化などを示唆してロシアに圧力を掛けたようだ)。

翌8月9日にはケリー米国務長官が、改めに「平和維持」や「人道援助」名目での介入を牽制する発言を行っているが、これもその前夜に何かが起こっていたことを示唆する。

ロシアは何故介入しようとしたのか

インタビューに答えるストレリコフ氏
インタビューに答えるストレリコフ氏

以上はあくまでも筆者がいくつかの報道をつなぎ合わせた上で描き出したストーリーであり、真相はまだ明らかで無い。

ただ、8日夜に軍事介入の危機が実際にあったと仮定して、このタイミングでロシアが(特にプーチン大統領が)介入を決断した理由を考えてみると、やはり東部において親露派がますます追い詰められつつあることが指摘できよう。

前回の拙稿でも親露派が軍事的劣勢に陥っていることはお伝えしたが、情勢は日を追うごとに悪化しており、ついにドネツクが完全に包囲されていることを親露派側も認めざるを得なくなった。

こうした中で親露派側は苛立ちを募らせており、ポーランドの有力紙「ガゼッタ・ヴィボルチャ」によると、ドネツク人民共和国のストレリコフ「国防相」は「ロシア正規軍を送ってくれないならウクライナを出る」とプーチンを脅したという。

ストレリコフはもともとのウルトラ・ナショナリスト的な思想傾向に加え、実際にウクライナ東部で親露派をまとめて戦ってきた実績から、一部の国民から強い支持を得つつある。プーチン大統領としては、ここでストレリコフが手勢の親露派武装勢力を引き連れてロシアへと撤退してくるようなことになれば自らの強力な政治的ライバルになりかねない、という懸念があり、軍事介入に応じざるを得なくなった可能性がある。

ただし、プーチン大統領も唯々諾々とストレリコフに従った訳ではあるまい。前回も紹介したが、ロシアがストレリコフを始めとする親露派指導部を抹殺しようとしているとの見方はますます強まっている(ウクライナ版「セヴォードニャ」紙は、ロシアが近く暗殺部隊をウクライナに派遣すると野観測を掲載している)。8日に介入予定だったロシア軍の「敵」には、ウクライナ軍だけではなく、親露派まで含まれていた可能性は充分に考えられよう。

ロシアは介入を諦めたのか?

問題は、8月8日の空振りの後、ロシアはもう軍事介入路線を放棄したのかどうか、であろう。

依然としてロシア軍はウクライナ国境付近に2万人規模の兵力を展開させていると見られ、依然として撤退の兆しは見られない。

また、ウクライナのパブリチェンコ国連大使は11日、依然としてロシアによる介入の脅威があると述べており、まだ危機は去っていないとウクライナ側は見ているようだ。一方、ロシア側でもペスコフ大統領府報道官が「”ニュアンス”の合意が得られた後、迅速に人道援助を行う」と意味深な発言を行っている。

少なくとも上記のような、ウクライナ東部を巡るプーチン大統領のジレンマは解消されておらず、その限りにおいて緊迫した状況はまだ続くことになろう。

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