マレーシア機撃墜事件後も続くロシアの対親露派軍事援助 一部で戦闘参加も?

ロシアが「さらに強力な多連装ロケット砲」を供与?

7月24日、米国務省のハーフ副報道官は、ロシアがウクライナ東部情勢に関して依然として関与を続けているとして、次の2点を指摘した。

1. ロシア領内からウクライナ側へ砲撃が行われている

2. ロシアが親露派武装勢力に対して「さらに強力な多連装ロケット砲」を供与しようとしている

第1の点については、以前からウクライナ政府はロシア領からの越境攻撃が行われていると主張していた。今回のハーフ副報道官の発言はこれを米国として正式に認め、ロシアが東部での戦闘に直接関与しているとの立場を明らかにしたものと言える。

しかもハーフ副報道官は、ロシア側からの攻撃について「情報機関が入手した証拠がある」と述べている。具体的にその「証拠」が何であるかは不明だが、ただのブラフでない限り、何らかの通信傍受や、前回の拙稿(「マレーシア機撃墜 米露の熾烈な情報戦」)で触れたような偵察手段を使用して証拠をつかんでいる可能性がある。

一方、ロシア側も、7月3日にウクライナ側から砲弾が飛来し、ロシア国民3人が死傷した事件をプレイアップしてウクライナ批判のトーンを強めている。7月24にアントノフ国防次官が述べたところによれば、6月から現時点までにウクライナ側からロシア領に向けて9回の砲撃があったという(WSI DAILY 2014/7/24)。

ロシア軍だけが装備するトルナード-G多連装ロケット
ロシア軍だけが装備するトルナード-G多連装ロケット

第2の点については、7月15日にウクライナのコヴァリ国防安全保障会議副書記が興味深い発言を行っている。これに先立つ7月11日の戦闘において、最新型のトルナード多連装ロケット砲が使用され、100人以上の死傷者が出たという(詳しくはWSI DAILY 2014/7/15参照)。トルナードは最近、ロシア軍で配備が始まったばかりの最新鋭ロケット砲システムであり、もちろんウクライナ軍は保有していない。

これが事実であれば、ロシアが新型ロケット砲を親露派に供与したか、ロシア領内から攻撃を行った有力な証拠である。また、ハーフ報道官が述べた、「ロシア側からの砲撃」や「親露派へのより強力なロケット砲供与」とも符合するように思われる。おそらく、このトルナードの件についても、米国は何か掴んでいるのだろう。

空でもロシアが戦闘に関与?

重装甲のSu-25の撃墜は容易ではない。写真は複座訓練型のSu-25UB
重装甲のSu-25の撃墜は容易ではない。写真は複座訓練型のSu-25UB

もう一点、気になるのが、7月23日に2機のウクライナ空軍機がドネツク州のドミトロフカ付近で撃墜された事件である。

これまでにもSu-25は何度か撃墜されているが、今回気になったのは、高度5200mという高高度を飛行中に、しかも2機同時に撃墜されているという点だ。というのも、7月14日に発生したAn-26輸送機の撃墜や同17日のマレーシア機撃墜と同様、肩撃ち式の携帯型地対空ミサイルではこれほどの高高度を飛行する航空機を撃墜するのは困難であるためだ。しかもSu-25は重装甲の攻撃機であるから、かなり強力な地対空ミサイルを使用したことが窺われる。となると、疑われるのは、親露派の手元にまだ「ブーク」のような大型防空システムが残っている可能性と、ロシア側が自国領内からウクライナ側へ向けて長距離防空システムを発射した可能性だ。

実際、ウクライナ政府側はこれがロシア領から発射されたミサイルによる撃墜だと主張している。マレーシア機撃墜事件の直前に別のSu-25が撃墜された際にも、ウクライナ側はこれをロシア空軍機による攻撃であると主張していたが、これを信じるならばロシアは空の戦闘にも直接関与し始めていることになる。

もちろん、ロシア側はこの疑惑を全面否定しているし、米国も口を閉ざしている。ただ、こうした不自然な撃墜事件が今後も続発するようならば、ロシアの関与を巡る情報戦が始まるかもしれない。

ウクライナ国境に再集結するロシア軍

これと同時に、ウクライナ国境では再びロシア軍の増強が進んでいると見られる。

ロシアは3月末から4月にかけてウクライナ国境に3万から4万とも言われる大部隊を集結させていたが(当時の状況については拙稿「緊迫するウクライナ東部とロシアによる軍事介入の可能性」を参照)、5月ごろから撤退を開始し、NATOの評価では6月半ばまでに1000人規模に減少したと見られていた。

ところが6月後半に入ると、再びロシア軍が国境地帯で増強されつつあるとの疑惑が持ち上がるようになる。7月14日にロイター通信がNATO筋の話として伝えたところによると、同時点で国境のロシア軍は1万~1万2000人。一方、7月22にウクライナのバルビー国防安全保障会議書記が述べたところでは、すでに4万人以上が国境に集結しているとされる。

発言者の見積もりや思惑によって数字は多少前後しているが、万単位のロシア軍が再びウクライナ国境に集結していることは間違いないようだ。

ロシアの狙いは?

プーチン大統領は6月末、ウクライナへの軍事介入のために上院から得ていた権限を返上するなど、ロシアの直接的な軍事介入を選択肢から外したように見えていた。にも拘わらず、ウクライナ東部国境に再びロシア軍が集結し、部分的に戦闘に直接参加しているとの疑惑まで持ち上がっていることをどのように解釈すればよいだろうか。

現時点では、これが軍事介入オプションの復活であるとは筆者は考えていない。

ウクライナ周辺での緊張状態とは裏腹に、プーチン大統領はマレーシア機撃墜事件でウクライナ政府を直接批判することは避けている上、事故調査についても「できることはやる」「親露派にも影響力を行使する」と述べるなど、比較的柔軟な姿勢を示してきた。7月12日の拙稿にも書いたとおり、プーチン政権はそろそろウクライナ問題の落としどころを探りに掛かっていた段階であり、マレーシア機撃墜事件によって波乱は生じたものの、基本路線はまだ放棄されていないと考えられる。世論調査でも国民の大多数は軍事介入に反対の姿勢を示しており、この意味でも軍事介入のメリットは薄そうに思われる。

ただし、ロシアがウクライナに対する戦略目標(NATO加入阻止による中立化など)をあきらめることも考えにくい。そして、こうした要求を呑ませるために東部でまだしばらくは一定の騒乱状態が続ける必要から、親露派に対するテコ入れを強化する必要性が6月ないし7月ごろから高まったのだと思われる。

それが一連の武器供与の強化(その中にはブークが含まれていた可能性もある)であり、国境付近へのロシア軍の展開なのではないだろうか。6月に掃討作戦を強化する前のウクライナ軍は、ロシアの軍事介入を恐れてごく限定的な軍事作戦しか実施してこなかった。そこで再び国境にロシア軍を展開させ、ごく小規模な戦闘にも参加してみせることで、ロシアの介入に関するウクライナの疑心暗鬼を生む。これが、ロシアが現在、ウクライナ東部から国境地帯に掛けての地域で展開している戦略であると考える。