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商品開発のストーリーにも隠れている!中小企業のセールスポイント

小出宗昭中小企業支援家
新宿屋の丸吉社長(右端)とディスカッション(関係者撮影)

 いまだ続くコロナ禍においては、あらゆる業界で、従来の販売方法や集客方法で売り上げをあげることができなくなり、経験のない減収に直面した事業者が多くいたと思う。この3年間、私自身も全国各地で中小企業支援の現場に入り、苦境の中においても何とか可能性を見出して生き残りを図ろうとする中小事業者と会い続けてきたが、20年以上中小企業のサポートをしていて最も支援の真価が問われていると感じるし、強い覚悟のもと業務にあたっている。ここでは、最近で特に印象深かった取り組みを紹介したい。

 大阪市に本拠をおく株式会社新宿屋の丸吉社長と初めてお会いしたのは2021年1月だった。新宿屋の主力製品は、爬虫類やオーストリッチなどのエキゾチックレザーとよばれる皮革を使った独自のオーダーメイド高級婦人靴だ。1足が4万円から20万円ほどするが、その履き心地や機能性などから根強いファンがいる。全国各地の有力呉服店が開催する催事で販売をしてきたが、新型コロナウィルス感染症拡大を受け催事が軒並み中止となり売り上げが激減、活路を求め、岸和田ビジネスサポートセンターにお出でいただいたのだった。

 何度かお会いする中、2021年10月に同社の隠れたセールスポイントを発見することとなる。それは、数ある製品の中でも私自身初めて見たシャークスキン(サメの皮)を使った靴の開発経緯を聞いたときだった。きっかけは、2011年3月の東日本大震災だという。あの日、同社の社員は宮城県気仙沼市に出張していたさなか被災し、気仙沼市の市民に助けられて大阪に戻ることができたそうだ。丸吉社長は何か恩返しができないかと考え、目をつけたのが気仙沼港で水揚げされているヨシキリザメの皮だった。その皮、つまり気仙沼産シャークスキンを使った高級婦人靴を製品化することにしたという。

 私は、この開発背景は極めて高い共感性があり、東日本大震災の被災地である気仙沼市を勇気づけるものだと思ったので、より踏み込んで同市の活性化につなげる取り組みをしないかと提案した。具体的には、私自身が同市での活動を通じてお会いした事がある、和装肌着等を手掛けるたかはしきもの工房と連携し、呉服ファン向けの靴を共同で製品開発し、気仙沼市発の商品として打ち出す事だ。

 たかはしきもの工房の高橋代表とは、私が2021年6月に開設した気仙沼ビズの業務の一環で直接お会いしていて、チャレンジ精神にあふれた方である事を知っていたので、この提案についても前向きに取り組んでくれることは予想できた。製品開発は順調に進み、2022年3月には気仙沼市の菅原市長にも同席してもらいつつ、新商品発表会が開催された。この取り組みをきっかけに気仙沼産シャークスキンの高級婦人靴の認知度は急速にあがり、ふるさと納税の商品としても登録されるなど、コロナ禍前にはなかった可能性が見えてきた。

 その後丸吉社長のもとに新たな商談が直接的に持ち込まれたり、催事が再開する動きもあったりした中、昨年末、社長から高揚した声で私に直接電話があった。とある著名な方からオーダーが入ったという。その事は、55万人を超すフォロワーがいるその方のツイッターでも紹介されていた。文中、気仙沼市への恩返しという開発背景にもふれながら。

 私が支援者として一貫して確信しているのは、すべての企業に生かされるべきセールスポイントがあるという事であり、本案件についてもまさにそういうことだったと思う。皆さんもぜひ今一度自社の強みがどこにあるか社内外の人たちと意見交換してみてはどうだろうか。

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

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