地域を磨き産業振興 問題点ではなく強みを見出す -事業計画書は見ずとことん話を聞く

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 2018年、北海道釧路市、岐阜県大垣市、熊本県人吉市で、f-Bizモデルの中小企業支援施設がスタートする予定だ。各地のセンター長募集にエントリーしてくれた420件以上の応募書類を拝読している中で、支援においては事業計画づくりの支援が最重要だと主張する方がいる。

 私は静岡銀行時代に7年半にわたりM&Aの担当をしてきたからよくわかるが、完璧な事業計画をつくることは可能だ。一方で、ビジネスは計画通りにいくとは限らない。計画づくりはするに越したことはないが、企業や経営者、ビジネスの真の強みを見つける事がもっと大切だと考えている。

 この事に関連して、現在「日経グローカル」に連載している記事の一つを紹介したい。

第3回 問題点ではなく強みを見いだす ―事業計画書は見ず、とことん話を聞く(2017年6月5日号掲載)

 既存の産業支援策は、そもそも産業支援が何業にあたるのかが不明確だと言える。だから担当者自身に「業」としての意識が生まれない。あるいは、どんなスタンスで取り組むべきかがわかりづらくなる。

 前回、公的産業支援とは公によるビジネスコンサルティング業であるべきで、サービス業と捉えていると述べたが、その上で産業支援担当者に求められる姿勢として、私は次の3つをあげたい。

  1. 相談者と同じ目線に立って考えること
  2. ビジネスや経営者のセールスポイントを的確に捉え、本人にも認識させること
  3. ビジネスの成功を目指し、相談者と戦略と戦術を練り、実現に向け一緒になり挑戦すること

 ただし、こうした「あり方」が結果に直結するわけではない。当然、成果の出せる「やり方」も必要になる。ではf-Bizではどのようなやり方をしているのか。今回は、業界のセオリーからあきらかにかけ離れ、異端とまで言われるf-Biz流について、詳しくお伝えしていきたい。

成果を出し続けられる理由

 全く売れなかった500万円の高額商品が、わずか半年で50件もの成約を獲得したプレス用金型メーカーの増田鉄工所、倒産寸前だったものの上場企業から引く手あまたの企業に変貌した司技研、大手スーパーに押されながらも昔ながらの地元の味をいかして息を吹き返した金沢豆腐店、ターゲットを絞り込むことで商品の売り上げが30倍になった椿油専門店サトウ椿株式会社――支援先の中小企業では続々と成果が出ている。

 2013年からは起業を目指す人向けの相談窓口「エフビズエッグ」も開設しているが、こちらも確実に成果を上げていて、これまで159組が創業し351人の雇用が生まれた。

 まるでマジックだと評する人もいるが、実はf-Bizには成果を出せる理由があるのだ。私はそれを「f-Bizの方程式」として次のように説明している。

  1. アドバイスではなくソリューションを提案する……問題点の指摘ではなく、企業の強みを伸ばすための具体的な戦略の提案を行う
  2. ワンストップ・コンサルティング……経営から広告、IT、財務、金融に至るまで、幅広い専門家をそろえたコンサルの百貨店
  3. 継続的なフォロー……単発の助言ではなく、成果を出すために一緒に走りながら支援を行う

 特にソリューションの提案は読者の皆さんの関心事でもあるに違いない。具体例をあげさらに詳しく述べていこう。

支援担当者向けのセミナー講師の機会も多い
支援担当者向けのセミナー講師の機会も多い

数字を見ても肝心なことは分からない

 支援に着手する際、まず行うのは「事業計画書や財務諸表の確認」が業界の常識とされているが、これで可能なのは問題点の発見と指摘だけだ。セールスポイントを見つけることはできないので、肝心の具体的戦略も見えてこない。f-Bizでは最初はバランスシートを見ない。まず相談者の話をとことん聞く。そのためには決して否定的な見解は示さず、同じ目線で臨むことが基本だ。

 「どうしてこの仕事を始めたのですか」「これまで、どのようにやってきたのですか」。相談者から見れば、少し拍子抜けのする始まりかもしれない。しかし雑談とも思えるようなリラックスした雰囲気の中であれこれ聞いていくと、相談者の口から、キラリと光る一言が出てくる瞬間がある。これこそが強みでありセールスポイントにつながる大きな糸口になる。

 以前、整体のチェーン店を経営する柔道整復師から規模拡大について相談を受けたことがある。やはり立派な事業計画書を持参しており、私がそれに目を通すのを今か今かと待ち受けている様子だ。もちろん私はそれを見ることもなくヒアリングを始めた。相手は単なる雑談だと感じていたかもしれないが、そのうち話が大いに盛り上がってきた。

 すると相談者が以前、腕を見込まれてわざわざ東京の治療院に招かれ、今より時間単価が10倍以上の報酬を得て施術をしていたことがわかった。彼の治療を受けるため、全国からその治療院に人がやってきたという。つまり、目の前の相談者は、「カリスマ柔道整復師」だった。ところが当人にはその意識がまったくなかった。そのため提供していたのは、自由診療を行わない一般的な施術だけで、将来もその路線でやっていこうとしていた。だが、それだけの腕と実績を持っているのであれば、今後は自由診療にこだわって展開していくべきではないか。私は治療院というより、富裕層をターゲットにした「サロン」として展開してみてはどうかと提案した。

 自身の持つ強みに気付いてもらえるように話を進めていくと、相談を始めてから45分たったころには「なるほどそうかもしれない」と相談者は見違えるように意欲的になっていた。やっと私は、彼が持参した立派な事業計画書を手にとった。とはいえ、パラパラと目で追った程度だ。大事なことは数字を眺めていても決して出てはこないのだ。

 

強みに気付けば自信が生まれる

 f-Bizでは「全ての企業にはセールスポイントがある」という前提で相談にあたっている。相談者は自社を見る距離が近すぎたり、業界の常識に縛られていたりするなど、自分達のことを正しく見ることができないため、強みを見逃していることが少なくない。「あなたの会社のことを教えて欲しい」と関心を寄せられると、悪い気はしないものだ。話が弾むと往々にして人は、「誰にも言っていないが…」と、実態や本音を語り出す。セールスポイントはこのタイミングで飛び出すことが多い。

 強みを引き出すことができたら、今度はそれを相手が納得するまで確実に伝えなければならない。強みの自覚がモチベーションを俄然アップさせるからだ。優れた技術や能力を抱えていることを客観的に説いて、現実的な方向性を探っていくと、最初は半信半疑で耳を傾けていた人も、疑問がやがて確信に変わる。やる気のスイッチがONになる。そして問題解決に向かって情熱を燃やし始める。だから結果が伴う。

 結果を「見える化」することも重要だ。f-Bizでは相談者がメディアに取り上げられた記事を事務所内の壁一面に掲示しているが、これらの情報は後に続く人へのエールになる。何より、これほどたくさんの人や企業が結果を出しているのだから「自分達にもできるはずだ」という認識が生まれる。

 信じがたいことばかりかもしれないが、事実、f-Bizはこのようにして結果を出し続けているのである。これもまた、業界の常識にとらわれない視点で考え、編み出したやり方を実践した結果である。

●情報

日経グローカル

富士市産業支援センターf-Biz