「よろず支援拠点」

安倍政権の経済政策「アベノミクス」により大手企業の業績改善が鮮明になってきた。

一方で日本の企業数の99.7%を占める中小企業はというと、中小企業支援の現場から見て、アベノミクスの恩恵がまだ行き届いていない状況である。

真の景気回復に向け中小企業の活性化が大きな課題となる中、政府は中小企業・小規模事業者の起業・成長・安定の各段階の課題やニーズに応じたきめ細かな対応を行い、経営支援体制の強化を図る必要があるとして、中小企業・小規模事業者の相談にワンストップで対応する公による産業支援拠点「よろず支援拠点」を全国47か所に整備する計画を打ち出し、その準備を進めている。私がセンター長を務める静岡県富士市の産業支援施設「富士市産業支援センターf-Biz」(以下エフビズ)は、この「よろず支援拠点」のモデルとなっている。

富士市産業支援センターf-Bizのキャッチフレーズは「日本一高い、チャレンジスピリット。」
富士市産業支援センターf-Bizのキャッチフレーズは「日本一高い、チャレンジスピリット。」

公的産業支援

公による産業支援(以下公的産業支援)の存在とその役割をよくわかっている人はあまり多くないかもしれない。自分もこの業界に足を踏み入れるまでは、その存在は知っていても、何がどうなっているのかよくわかっていなかった。

公的産業支援、つまり税金が使われたビジネス支援サービスは、国や地方自治体をはじめ商工団体などを通じて提供されている。規模の大きさは大小あれど、日本全国どのまちでも受けることができる。相談機能や専門家派遣、補助金・助成金制度、貸事務所など、経営資源に限りのある中小企業・小規模事業者にとっては有難いソフトやハード面のサービスが目白押しだ。

そのような中でエフビズが「モデル」として注目されている大きな理由の一つは、中小企業・小規模事業者が抱える課題に対し、プロの支援者たちが「具体的な解決策」を「ワンストップ」で提供し「成果を出している」ことだと捉えている。エフビズがそうできる訳は何か。私がエフビズのセンター長就任を依頼されたとき真っ先に考えた「どんな人材とチームを作るか」という点に答えはある。

本物の産業支援人材

私は、公的産業支援を業種分類するとしたら、ビジネスコンサルティング業だと明確に位置付けている。中小企業・小規模事業者が抱える課題を解決し、成果を出せるようにサポートすることが目的で、サービスの提供が目的ではない。よって、公的産業支援にはそうしたサポートを提供できるプロの支援人材が欠かせない。プロの支援人材とはたとえばMBA(経営学修士)などの学位をもったプロのコンサルタントや、中小企業診断士のような資格を持った専門家であるとは限らない。ビジネスに関する学位や資格をもっていることはもちろん良いことであるが、支援者にとってそれ以上に欠かせないのは、中小企業・小規模事業者と同じ目線に立てること、一緒に挑戦しようとする姿勢になれることである。これができる人材こそ本物の支援者だと私は考えている。エフビズで支援業務にあたっているアドバイザーはみな、この姿勢を持っている。

"チームf-Biz"でサポートにあたる

私が公的産業支援に携わるようになった2001年、私は勤務先の銀行から出向する形で行政がつくった創業支援施設の立ち上げと運営を任された。41歳で突然出向を言い渡された衝撃を除き、業務を通じて受けた大きなショックが2つある。銀行で働いていたときは、破格の待遇を当然のように受けながらも、「与えられた目標をいかに効率よく達成するか」ばかりを考えていた。しかし当時の主たる支援対象であった起業家たちは、深夜早朝はもちろん盆暮れもずっと働いているのに、自分よりもずっと生き生きと輝いていた。そんな彼らと銀行員のままの目線で対話しても、話が全くかみ合わない。限られた資源の中で自ら目標を掲げさらに実行する生き方をしなければ、コミュニケーションさえも成立しないのだ。また、既成概念にとらわれずどんな起業家にも可能性があると信じて疑ってはならない。7万円で立ち上げた事業を年商1億円超にまで成長させた育児中の女性や、地元の弁当惣菜企業と連携し10日間で3万食販売するという爆発的ヒットの弁当商品を生んだ、ビジネスには殆ど関心のなかったスポーツ栄養士などとの出会いがあった。起業家たちは、銀行員の視点ではきっと見逃していただろうビジネスチャンスを類まれな情熱とチャレンジ精神で次々と形にしていった。

チャレンジャー大量輩出作戦

日本の企業の99.7%は中小企業である。中小企業の再生なくしては日本経済の再生は実現しない。特に地方都市においては喫緊の課題である。中小企業が元気になれば、地域には新たな仕事が生まれ、そのまちの経済が活性化し、そして国の経済が活性化していく。

公的産業支援施設などという一見よくわからない場所にわざわざ足を運ぶ人は、何かを変えたくて一歩踏み出した勇気ある人たちだ。そうした挑戦しようとする人を尊敬し、彼らと同じ目線に立って、彼らが「できていないこと」や「できない理由」を探すのではなく、彼らの良いところを見抜きそれが最も輝く方向性を一緒になって考え、かつチャレンジする支援が必要である。その支援の実現を目指すのが、中小企業・小規模事業者を対象とした「よろず支援拠点」である。

私のスタイルは、名付けて「チャレンジャー大量輩出作戦」。地域の挑戦者たちをこれからも全力で応援し、富士から日本を元気にしていきたい。