6月19日、原子力規制委員会は原発の新しい規制基準を決めました。電力4社は7月上旬に6原発12基の再稼働を申請する計画といいます。

しかし、この新しい規制基準、ハテナ?がいっぱい。

基本的には、私は原子力政策の暴走を防ぐのは規制委員会しかないと思っています。規制委員会が筋を通してくれなければ困ります。

福島原発事故のもたらしたものに目を閉ざして、前のめりの政策でふたたび「敗戦」の事態を招くことがないように、規制委員会をサポートしなければならないでしょう。

基準は運用がカギですが、最稼働まっしぐらの世論の支持・黙認が多ければその方向へ傾き、反対に世論が選挙を通じて不支持の意思表示をすれば引き戻せるということです。そこに希望があります。

しかし、やっぱり気になるハテナ? つれづれに並べると次の通りです。

(1)再稼働のための基準?

「新規制基準」ではなく「再稼働するための基準」が明白。規準決定の予定を前倒ししたのはまだしも、最稼働まっしぐらの安倍「前のめり政権」の意向に沿うように、緊急時制御室などの設備は5年間の猶予をつけました。

規制委員会が「今後5年間に緊急時はない」とみなした根拠は何でしょうか。近代史を見ると、期待や思い込みを根拠に見切り発車するパターンを何度も繰り返してきましたが、まだ懲りないのかしらん?

(2)運用しだいでいかようにも?

判断の元になるデータづくりはあいかわらず電力会社任せです。規制委員会には人員、能力、予算が圧倒的に不足しています。ですからやむを得ないことは重々わかるのですが、再稼働まっしぐらの政権と原子力ムラに丸投げの運用になることが見え見え。本来ならそうならないように、権限ある規制委員会の検査官が常時原発のすみずみまで監視することが必要なはず。

委員長が記者会見で「運用が重要」と言っていましたが、何だか規制委員会の敗北宣言に聞こえました。

(3)世界水準の規制基準?

世界水準の規制と胸張る根拠もまた不明。厳格、厳密ということで言えば、スリーマイル島事故をきっかけに規制委員会の権限を強化したアメリカの規制基準が世界一でしょう。

アメリカより立地条件が厳しい地震地帯に原発を並べてきた国が、今さら何を言っているのでしょうか。

今年は足尾銅山の鉱毒被害に農民の立場から異議を申し立てた田中正造翁の没後100年ですが、正造翁は「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」と述べています。

「原発で誰も死んではいない」などと破廉恥な本音を出す「政治家」の発言が世論の反発を呼びましたが、「人が死に、川も山も荒れ、村が破られた」原発事故の発生を再び許さない「世界一厳しい基準」だというのでしょうか?

(4)マックスの基準か?

規制基準は目標とする最高レベルか、それとも最低線か?

規制委員会は、現在運転中の大飯原発に関し、今回の基準決定に関わらず点検に入る9月までは運転継続を認めました。その発表と同時に、電力会社が基準対応のための最低線を探るような姿勢を批判しました。

しかし、新しい基準が「最高レベル」とすれば、電力会社が最低線を探るのは、道義に反するとはいえ合理的な選択かもしれません。

「世界一厳しい」というのは最高レベルであるという認識につながります。むしろ、「最低レベル」として電力会社に事故防止策を求めるべきではないでしょうか?

(5)津波だけが事故の原因か?

福島原発事故が津波だけで起きたと断定できるのでしょうか。国会事故調査報告書は、地震による原発の破壊を示唆していますが、いずれにせよ事故原因はまだ解明されていません。強い放射能のために現場に入れないために、未だわからないことがたくさんあるのです。

耐震レベルのアップについては電力会社にお任せといったところ。これもまた規制委員会の人材、予算などの総合的力量不足が根っこにあるためです。

またPWR原子炉の蒸気発生器の細管は脆弱という特徴的欠点があります。先日アメリカの電力会社がサンオノフレ原発の廃炉を発表しましたが、きっかけになったのはまさに細管からの水漏れでした。ただでさえ細管は脆弱、それに地震の揺れが加わるときの「失敗」が懸念されます。

(6)緊急時にだれが原発を守るのか?

設備だけでは安全は保てない。これは安全を考える時の常識です。人材と制度が重要で、設備とともにこれら3つの条件を揃えなければならないのです。

福島事故では原発制御が困難になって来たとき、通常は数千人が働いているという現場から少数の要因を残して「ほぼ全員撤退」しました。労働者としては当然のことです。

しかし、福島で明らかになったことがあります。労働者は兵士ではありませんが、いったん事故が起きたら兵士と同じように、命を賭して任務を遂行しなければならない瞬間が訪れる可能性があります。ときには致死的な量の放射能に曝される可能性があるからです。

そのとき現場ではどうするのか。緊急時の備えての訓練をどうするのか。これも電力会社にお任せですか?設備の基準も重要ですが、たとえば「被ばくレベルによる従業員の行動基準」が不可欠ではないでしょうか?

(7)「従業員の安定確保」にも基準が必要ではないのか?

これは現状を放置はそのまま安全への脅威になるという問題です。経験豊かな熟練労働者ほど高齢であり、また被ばく限度に近づいて放射能のある事故現場では作業できなくなります。正社員は労働組合の庇護の下にあり、組合として危険作業は拒否します。その結果、苦情を言わない下請け、孫請け・・・の労働者が危険作業を肩代わりして行く傾向があります。10次下請けもあるということです。経験、経験などの総合能力のある労働者が安定的に確保できなくても、設備が守ってくれるというのは幻想に過ぎません。

(8)事故が起きた時の基準は?

「再稼働を急ぐための基準」を越える「新規制基準」というなら、事故が起きた時の基準についても言及があっていいでしょう。たとえば、福島で深刻な事態に陥っている汚染水の処理の準備基準だって不可欠でしょうが?

(9)「地元自治体」の範囲は?

最稼働をしたいなら、このくらいのことを配慮するのが当然ではないかという意味でのハテナです。

言うまでもないことですが、いったん事故が起きた時の被害の及ぶ範囲は、原発が立地する地元自治体の境界とは無関係です。地元の定義を再検討した基準が欠かせません。

福島の教訓の一つは、「原発は安全」を前提にしてはならないことです。「最高レベル」の手立てを尽くしても「原発は危険」を前提に予防対策を立てておく必要があります。

地元の範囲、情報公開、地域の事情にきめ細かく対応する避難計画、計画に基づく訓練など、自治体が主体になって行う行動計画基準も決めずに簡単に「再稼働OK」は出せないのではないでしょうか?

(10)溢れる使用ずみ燃料は?

福島原発4号機は停止中でしたが、使用ずみ燃料保管プールの冷却不能によって破局の淵に至りました。使用ずみ燃料は各原発の保管プールに溢れ、六ケ所の保管スペースもほどなく限界に近づいています。放射性廃棄物の永久処分の行き詰まり、保管の限界、このほか核燃料サイクルの破たん・・・など、原発路線に将来はないなかで、各電力会社の今回の再稼働基準を満たすだけでも莫大なコストがかかることから廃炉を選択するのが妥当という判断もあり得ます。

再稼働すればますます深刻になる使用ずみ燃料事情について、何も言わないのはやっぱりハテナ?です。