14日のニューヨーク・タイムズは「私の医学的選択」という投稿を掲載しました。

投稿の主は女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(37歳)。

遺伝子BRCA1に変異が見つかり、医師から「乳がんになる確率が87%、卵巣がんになる確率が50%」と告げられたことから、両方の乳房を予防的に手術で切除したそうです。

ジョリーさんの母親は10年間乳がんと闘病のあと56歳で亡くなっていること、夫の俳優ブラッド・ピットさんも支持したことが、ジョリーさんの決断を後押ししました。切除した乳房はインプラントで再建しました。

この結果、乳がんになる確率は5%以下になったとしています。ジョリーさんは、「医学的に様々な選択肢がある、挑戦を恐れるべきではない」とのメッセージで文章をまとめています。

遺伝子検査でBRCAに変異があるとわかって、乳房や卵巣を予防的に切除する手術がどのくらい行われているのか。

海外、国内ともにあまり公表されていないようですが、実際はかなり行われているとみられます。

がんになる前に切除するのは病気になる前にからだに「侵襲」を加えることになるなど倫理性の疑問がありましたし、その効果に対して科学的評価が行われているとはいえないままですが、事実上はジョリーさんの言うように「医学的選択肢」の一つという段階になっているようです。

「選択肢」になっているということは、他にも多様な治療法がある、そして患者・家族が「選択」の主役ということに他なりません。

また、医師が専門領域を越えて協力するだけではなく、看護師やそのほかの医療関係者の参加する「チーム医療」が当たり前になって来たことから、「情報」と「知識」と「理解」を、患者・家族を核とするチーム全体が「共有」することがますます大切になって来ています。

おりしも、この「情報・知識・理解の共有」をテーマにした第21回日本乳癌学会学術総会が、2013年6月27日から29日に、静岡県浜松市で「アクトシティ浜松」で開かれます。

一般に大規模な「学会」というと、科学者たちのお祭りのようなところがあります。

内容は多岐にわたりとにかく盛りだくさん、同時並行に多数の発表が行われます。

発表は興味ある内容でもごく短時間で、多数の図表を提示しながら発表者が早口でしゃべります。割り当ての時間来れば、そこでおしまい。「分かる人だけが分かればいい」、「狙いは学会で発表したという実績づくり」という印象があります。

本当に重要な情報交換は、一部の関係者が非公式に集まるとか、ロビーの立ち話や夜の会合でというのがごく普通の風景です。

私たちのような取材者もあちこちの会場を飛び回らなければならず、事前に懇意の研究者から耳打ちをしてもらわないと困るのが実態です。

今度の乳癌学会が、渡辺亨会長のリーダーシップで「情報・知識・理解の共有」をテーマにしたのは、これまでの学会の殻を破ろうとする大きなチャレンジだと思います。

「情報・知識・理解の共有」あってのがんのチーム医療です。そうだとすれば、「情報・知識・理解の共有」があっての学会ということになるでしょう。

「情報・知識・理解の共有」は、がん対策として縦割り学会、縦割り社会に風穴を開ける最大のテーマかもしれません。

国立がんセンターがん対策情報センターの資料によると、日本人女性のがん罹患率(2004年)は、人口10万人に対して、乳房62.0人、子宮32.5人、胃30.2人、結腸23.8人でした。

そしていまも乳がん罹患率の上昇傾向は続いていますが、死亡率の方は、人口10万人に対して11人強と20年間に微増しただけです。 また2005年の女性のがん罹患数は、多い順に乳房、胃、結腸、肺、子宮ですが、2009年の死亡数は、肺、胃、結腸、すい臓、乳房の順序です。

乳がんは、「かかりやすいが、治療効果が大きい」がんなのです。つまり、がんになってもがんでは死なないという生き方もあるということで、この点から見ても「情報・知識・理解の共有」が重要ということができます。

アンジェリーナ・ジョリーさんの選択は、一つの選択であったことは確かです。しかし、普遍的な意味で最善の選択ということではありません。個別の人生において選択することが重要なのです。今度の乳癌学会でテーマがどのように具体化するか、ぜひ注目したいと思います。

おまけ。

男性のがん罹患数と死亡数の順序を載せておきます。2005年の罹患数は、胃、肺、前立腺、結腸、肝臓の順。結腸と直腸を「大腸」とまとめると2位。「大腸」は女性も2位。2009年の死亡数順序は、肺、胃、肝臓、結腸、すい臓。「大腸」とすると3位。女性は「大腸」だと1位。