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マスク着けすぎ「呼吸困難で気絶」金正恩式コロナ対策の笑えない現実

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 著しく遅れていると伝えられている北朝鮮の「田植え戦闘」。今月に入ってからは、コロナ対策の移動統制を一部緩和して、都市部の住民を農村に動員している。

 現場ではコロナ対策が行われているのだが、あまりにも厳しすぎて、不満の声が上がっている。

 咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、一般市民や生徒、学生は毎日のように近隣の農場に動員されているが、カンカン照りに加え、監視や統制が厳しく、息が詰まりそうだとの声が上がっている。

 動員される人の数に合わせてマスクが配給されるのだが、1人あたり2〜3枚着用することを求められている。蒸し暑さの中でマスクを二重、三重にして農作業を強いられている人々の間からは「息が詰まって死にそうだ」との声が上がっているが、外そうものならば、防護服を着た防疫の担当者が飛んできて厳しくしかり飛ばすという。

 防疫ルール違反で公開処刑まで行われていた同国だけに、人命よりもルールそのものが重視されているのかもしれない。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 現場では呼吸困難に陥って倒れる人も続出し、木陰で休憩させ、深呼吸させるなど対応を取っている。ちなみに世界保健機関(WHO)は、体を動かす際のマスク着用について、次のように説明している。

「マスクをしたまま運動すると呼吸が苦しくなることもあるため、運動中は着用しないほうがよい」

 北朝鮮の人々の間からは、コロナ対策のあまりの厳しさにこんな声が上がっている。

「教化所(刑務所)じゃないか」

「罪を犯していないのに罪人みたいだ」

「防疫指針を少し緩和してほしい」

「こんな息の詰まる現実で、頭がおかしくならずに生きているだけまだマシだ」

 そんな状況を見ていた防疫イルクン(幹部)や地方政府の幹部の間からも「住民にあれこれ言える状況ではないが、防疫は生き残るためのものではないか」と、やり過ぎな状況に苦言を呈している。

 だが、当局はコロナ対策と国民の思想動向を結びつけて締め付けている。「今回の防疫大戦が忠臣と奸臣や逆賊を判断する場」だとして、不満を口にする者がいれば報告するように指示を下し、住民動向資料を収集させている。

 また、密告も奨励している。国や党に対して不満を述べる者がいれば、その内容を紙に書いて提出しろというのだ。

 しかし、動員された人々は「死にそうだと言うのに、なぜ何も言えないのか」と裏で反発しており、幹部に対しても、「目があるのだからこの状況を見ればわからないのか」と批判している。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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