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「しょせんは口先だけ」金正恩のコロナ対策に北朝鮮国民は幻滅

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮の金正恩総書記は15日、新型コロナウイルス対策の非常協議会の場で、医薬品供給が停滞しているとして、幹部らを厳しく叱責した。

 このことは、連日国営メディアでも報じられているが、それを見た北朝鮮国民からは、批判的な声が上がっている。金正恩氏は、内閣と保健医療部門の担当者、中央検察所長らを槍玉に挙げたのだが、これが「いつものやり方だ」というものだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 金正恩氏は幹部らに対し、「人民に奉仕すると口で言うばかりで、実際はやっていない、政策執行の監視と統制ができておらず、医薬品の取り扱いと販売における否定的な傾向を正せていない」などと批判しているが、これに対する情報筋の反応はこうだ。

「医薬品の供給の問題は昨日、今日の話ではない」

 北朝鮮は「社会主義保健医療制度」と称し、すべての国民が医療を無償で受けられると宣伝しているが、現実は全く異なる。1990年代後半の食糧危機「苦難の行軍」に前後して、無償医療制度は崩壊。病院にかかるにもワイロが必要となり、薬は市場で購入しなければならなくなった。

 昨今のコロナ感染拡大を受け、治療に必要な薬の価格が高騰。そればかりか、コロナ鎖国により医薬品の輸入がストップした影響で、カネがあっても薬が手に入らない状況となっている。国産の医薬品も原料の多くを輸入に頼っており、品薄になっているのは同じだ。

 こんな状況に情報筋は「お上(金正恩氏)は人民生活(の問題)を解決せよと口先で指示を下すばかりで、実務的な対策は立てられていない」とし、「幹部たちが働く条件も用意されていないのに、それっぽい指示ばかり下して叱責ばかりして、それで問題が解決するというのか」と強く批判した。

 また、今回も「職務怠慢」などとして、幹部に責任をなすりつけるやり方にも批判的だ。

「こんな事例は一度や二度ではない、騙される人などいないだろう」(情報筋)

「最高指導者は無謬の存在で、失策はその命令どおりに実行できなかった幹部の責任」というのが、北朝鮮がよく持ち出す理屈だ。今回の叱責も、従来のやり方に沿ったものだと見抜かれているのだろう。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 非常に有能な幹部であっても、運が悪ければ、責任をなすりつけられ、最悪の場合、物理的にクビが飛ばされてしまう(処刑される)。今の所報じられていないが、もしかすると、既に犠牲になった幹部がいるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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