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核戦力が自慢の金正恩「ブタ肉」確保のため幹部ら奔走

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 鉄板の上で焼かれる肉の前で「ああ、プルゴギ!(焼き肉)」と叫び、涙を流す朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士の絵。最高指導者のありがたさを宣伝する目的で描かれた絵が、全世界的には、北朝鮮の食糧事情の劣悪さを示すものとして受け止められた。

 金正恩総書記は、閲兵式で核戦力を誇示しご満悦の様子だが、その一方で、末端の兵士らは飢えに苦しんできたのだ。

 そんな絵が公開されて11年。先月25日の朝鮮人民軍創建90周年記念日に、各地の部隊に豚肉が配給されたと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。コロナ鎖国で食糧事情が再び悪化する中、同じような光景が再び見られたのだろうか。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 朝鮮労働党両江道委員会(道党)は、軍創建から90年という整周年(5や10で割り切れ、重要とされる年)を迎え、各市・郡の党委員会(市党、郡党)に対し、地元に駐屯する軍部隊に豚肉を配給するよう指示した。市党、郡党は、地域の工場、企業所、協同農場に豚肉を供出するように命じた。

 金正淑(キムジョンスク)郡の郡党は、先月18日から23日までの期限を決めて、豚肉供出を求めた。だが、指示通りにはいかなかった。

 それというのも、北朝鮮では2月の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)80周年、4月の太陽節(金日成主席の生誕記念日)110周年と、国家的行事が目白押しで、そのたびに軍部隊に対する豚肉の供出が命じられた上に、平壌1万世帯住宅建設の現場にも、同様の供出が求められ、地元の養豚場はすっからかんなのだ。

 郡内の新上里(シンサンリ)協同農場は、豚肉供出命令を受けたものの、応じられない事態に追い込まれた。そこで、幹部が農場内の9つの作業班を周り、1キロ2万2000北朝鮮ウォン(約440円)という通常の豚肉価格の10倍に相当する穀物を、秋の収穫後に手渡すと約束して、なんとか個人が飼育していた豚を入手、20キロの豚肉を確保できたという。

 これだけ大騒ぎして豚肉を供出させたが、当局は一般住民に、軍創建90周年関連の各種行事の開催について、一切知らせていない。金正淑郡を含めた両江道と咸鏡北道(ハムギョンブクト)の中国との国境に接する地域では、行事の日程などを住民に知らせるとすぐに海外に情報が伝わってしまうために、情報を出さないようにしているものと思われる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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