北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)金亨稷(キムヒョンジク)郡に住んでいた一家4人が、親しくしていた国境警備隊員に睡眠薬を飲ませ、寝入った間に国境を越えて脱北した事件が起きたのは今年10月のこと。

 金正恩総書記は、「億万のカネをつぎ込んででも、民族反逆者を無条件で捕まえて、見せしめとして厳罰にせよ」と命じていたが、金亨稷郡の対岸の中国吉林省で逮捕されていたことがわかったと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 金正恩氏の厳命があったことから、4人は公開処刑になるか、管理所(政治犯収容所)送りになるとの見方が示されている。

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 国家保衛省(秘密警察)は、金正恩氏の命令に従い、逮捕に当たる要員3人を中国へ極秘裏に派遣、現地に駐在している海外反探局の要員と共に、4人を追っていた。

 4人は、取り引きのあった中国の業者の家に身を潜め、韓国行きを目指していたがうまくいかず、その業者所有の朝鮮人参の畑のそばにある小さな家に隠れていた。だが、居場所が国家保衛省に発覚し、逮捕されてしまった。

 4人は麻袋に入れられたまま、金亨稷郡保衛部(秘密警察)と国境警備隊が待機させていた船で北朝鮮に連れ戻され、国境で待っていたトラックに乗せられ、両江道保衛局のある恵山(ヘサン)に移送された。いかにも、保衛省が用いそうな手法だ。

 中国の公安当局が、このような大々的な作戦に気づかないとは考えにくく、おそらく黙認の下に行われたのだろう。

 新型コロナウイルスの防疫や保安問題を考慮して、4人は別々の部屋に勾留され、取り調べを受けているとのことだ。

「獣よりひどい扱いをされ、シャバで暮らしていたころがどれだけ幸せだったかを思い知らせた上で、管理所に送られる可能性が高い」(現地住民の声)

 また、逮捕作戦当時の物々しい雰囲気についても、目撃談が伝えられている。

「(昨年1月の)国境封鎖以降、緩衝地帯への接近禁止命令が下され、夜にも通行が禁止され、静寂に包まれていた地域一帯だが、あの日(先月10日)は大騒ぎだった。南朝鮮(韓国)の大統領を拉致してきたのかと思った」(現地住民の声)

 一方、逮捕作戦を成功させた国家保衛省の内部では安堵の空気が流れているとのことだ。

「『専門訓練を受けたスパイでもない、一般住民ですら捕まえられなかったら、国家保衛省の海外反探能力の喪失ではないか』との元帥様の心配のお言葉が下され、保衛省の内部は大騒ぎになったが、結局捕まえることができて、胸をなでおろしている」(情報筋)

 もし逮捕に失敗していれば、その責任を問われ、数多くの担当者、幹部のクビが飛んでいたことだろう。

 だが、作戦が成功したことで、中国に派遣された3人は能力が認められ、今後は責任イルクン(部署のトップ)、後備幹部(幹部候補生)として育成されることとなり、報奨として30日の休暇を与えられ、平壌市内の普通江(ポトンガン)区域にある国家保衛省招待所に滞在しているとのことだ。