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「不倫が増えすぎてヤバイ」北朝鮮の権力中枢に危機感

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮当局が大々的に行っている「非社会主義・反社会主義現象」に対する取り締まり。当局が考えるところの「好ましからざる行為」を広範囲に取り締まるものだが、その対象範囲は非常に広い。

 まず、代表的なのが賭博と覚せい剤などの違法薬物、売買春だ。

 これらはかねてから取り締まりが行われ、金正恩総書記が自ら根絶を訴えてきた経緯がある。

 これだけならまだわかるが、密輸やヤミ金融など北朝鮮経済に深く組み込まれているもの、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴など、対象がどんどん広がり、取り締まりも長引いていることから、国内では疲弊が広がっている。しかし、取り締まりはまだまだ続きそうだ。

 両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、朝鮮労働党両江道委員会の組織部は、時代の流れに敏感な若者の間で多数起きている非社会主義現象を徹底して克服すべきだとして、両江道の社会主義愛国青年同盟(青年同盟)の責任イルクン(幹部)会議を招集したと伝えた。

 この日の会議で組織部は「両江道は国境に接しており、不順出版宣伝物が入ってくる関門のようだ」として、昨年12月の「反動的思想・文化排撃法」の制定後の取り締まり強化と厳罰にもかかわらず、若者の間で韓流などが流行っている現状について指摘した。

 また、若者たちはそれらを見るだけにとどまらず、不純な出版物を印刷したり、USBメモリやSDカードに入れて流通させているとして、安全部(警察)、保衛部(秘密警察)が取り締まりを続けているとした。

 さらに、それらから影響を受けたであろう風変わりな格好や踊り、歌が蔓延しているとして、青年同盟の責任イルクンが率先して気を引き締めて、若者たちを教育すべきだと強調した。

 組織部の指摘にはそれだけにとどまらない。「若い女性が結婚せずに、男性と不倫したり、愛人関係となったりして、家庭を破壊して寄生虫のように暮らしている事例が増え、朝鮮女性固有の性道徳が乱れている」とも指摘した。

(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに

 組織部はこれら問題を指摘し、「若者たちがどんどん大胆になりつつあるのに、君たちは一体何をしているのか」「若者たちに対する思想教養(教育)事業を一体どのようにしたらこのザマになるのか」などと厳しく叱責した。

 さらに、これらの問題は国の秩序を乱しているとして、青年同盟の責任イルクンたちは若者たちの私生活にまで気を使い、思想の足かせとして彼らの生活を糺すべきだ、さもなくば無慈悲な法的処罰が待っていると警告した。

 これにより、一時的に取り締まりが強化されることが予想されるが、結局は元の木阿弥となるだろう。国や社会のことより自分のプライベートを大切にする「チャンマダン世代」と呼ばれる若者に、いくら思想や革命を説いたところで、表向きはおとなしく従うフリをするだけで、裏ではやりたい放題という状況に変化をもたらせないだろう。

 取り締まりが効果があるのならば、とっくの昔に韓流も奇抜なファッションも自由恋愛も消えているはずだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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