麦飯に大根のキムチ、豆もやしのスープ。かつて、韓国軍の兵士はこんな貧弱な食事で36ヶ月もの兵役に耐えていた。1日の摂取すべきカロリーは1954年に3800キロカロリーに定められたが、横流しなどで量が減り、末端の兵士の元に届くころにはすっかり目減りしていた。

 食事の中身が改善され始めたのは、韓国が高度成長の真っ只中にあった1970年代後半からだ。

 韓国軍の1960年代以前の状況よりひどいのが、2010年代の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)だ。兵士たちは飢餓という敵との戦いを迫られ、空腹に耐えかねて、民間人の家や農場を襲撃する有様だ。

 そんな状況に対して、金正恩総書記が改善に乗り出した。

 金正恩氏は今年5月、「栄養状態が深刻で、訓練に参加しない人員が少なくない」という国防省後方局と軍医局の報告書を受け、栄養失調者を収容する保養所の開設を指示した。

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 そしてデイリーNKの北朝鮮軍内部情報筋によると、今月9日にも「(10〜11月の)全軍訓練準備及び越冬準備期間に、部隊の後方事業の問題と虚弱(栄養失調)軍人の退治問題を改善することについて」という武力総司令官(金正恩氏)の命令が、各部隊に下された。

 命令を受けて、軍の総政治局と国防省の糧食局、被服局、後方総局、軍医局など関連部署は12日から、7人1組の検閲団を立ち上げて各部隊に派遣。訓練準備の状態、冬季の食糧、おかずなどの後方物資の点検、軍人の栄養失調者の状況を把握するための検閲(監査)を行っている。

 検閲団は、来月末までの期間に、兵士の食事の状態、体重などをまとめた報告書を完成させるとのことだ。具体的には、定められたとおりに大豆粉に水を混ぜたものを1日3回、おからを週4回提供しているかをチェックするという。

 朝鮮人民軍は国防のみならず、国が進める建設現場に労働力を提供するという重要な役割を担っているが、栄養失調で働けないとなれば、国家経済発展5カ年計画の達成にも支障が出かねない。

 食糧不足の解決方法として国が示したのは「自力更生」という現場丸投げのものだが、「それでは不可能だ」との声が上がっている。軍の訓練所では過去2年間、荒れ地を耕して副業地(軍部隊付属の畑)を造成、農業を行ったが、大豆の作況が今一つで、保養所に供給する量も不足する有様だ。

 だからといって、何もせずにいるわけにはいかない。金正恩氏の指示があった上に、彼の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長が最後まで監督するとの噂まで流れており、適切な対策が立てられなければ、責任者のクビが飛びかねない。

 訓練所は結局、市場で大豆を買い入れるという選択をしたようで、近隣の平安北道(ピョンアンブクト)定州(チョンジュ)の市場では、大豆1キロの値段は5日には4300北朝鮮ウォンだったのが、18日の時点で5000北朝鮮ウォンまで上がっている。軍の問題で、庶民にしわ寄せが行っているのだ。

 軍の食事改善に関する指示は今までも何回も出されているが、生まれるのは弥縫策ばかりで、ほとぼりが冷めればまた元通りという状況が繰り返されている。集団農業の解消による農業生産性の向上、肥料、営農資材の円滑供給など、根本的な問題が解決されない限りは、この悪循環から抜け出せないだろう。