北朝鮮の金正恩総書記に「影武者がいる」との情報がネットを中心に流れている。金正恩氏は9月9日に行われた建国73周年の閲兵式に登場した。

かなりスリムになった上に、独特のヘアスタイルにも大きな変化があった。また、どうやら祖父である故金日成主席に似せるためのメイクを施していることから、「別人では?」という印象を与えたようだ。

(参考記事:【写真分析】金正恩氏が「別人」に見える理由…容姿の激変に見る危ない精神世界

筆者も複数のメディアから「金正恩影武者説」について意見を求められたが、一貫して「影武者はいない」と断言している。金正恩氏が2010年に公式登場して以後、北朝鮮メディアや外信が配信した写真、動画にはほぼ目を通しているが、別人と思しき素材を目にしたことは一度もない。

それでも根強く拡散する「金正恩影武者説」について、金正恩氏の写真を見比べながら検証してみたい。よく影武者説の根拠として挙げられるのが「耳の形が違う」だ。まずは2012年から2020年3月までの金正恩氏「右耳」の形がよくわかる写真をセレクトしてみた。

朝鮮中央通信から
朝鮮中央通信から

完全な同ポジションではないが、耳の特徴は一致している。また、右眉毛の上のキズのようなシワも金正恩氏の特徴として挙げられる。体重が増加したため、印象はかわっているが、顔の個々のパーツがほぼ同じことがわかるだろう。2012年から2020年3月までの金正恩氏が同一人物であることは明白だ。

金正恩氏は2020年4月、心血管手術(ステント手術)を受けた。このニュースは「心臓手術に失敗して死亡」という誤報となって世界中をかけめぐったが、5月に再登場して健在であることを示した。当時、死亡説に乗っかった一部の「北朝鮮事情通」は、誤りを取り繕うため「再登場した金正恩氏は影武者だ。本人は死んでいる」と主張しはじめた。そこで、2020年5月から2021年9月までの写真を見比べてみたい。

朝鮮中央通信から
朝鮮中央通信から

体重の増減もあって変化が激しいが、2012年から2020年3月、そして2020年5月から2021年9月までの金正恩氏の耳の形、顔のパーツの形状は同じだ。結論として、金正恩氏に「影武者はいない」のは一目瞭然である。

影武者説は写真すら検証もしていないガセネタ、フェイクニュースの類だ。それにもかかわらず、こういった説が拡散するのは単純に「影武者がいる」方が「いない」より、ネタとして面白く、また飛びつく読者がいるからだろう。

北朝鮮の政治体制についてある程度の知識と知見があれば、そもそも最高指導者に影武者なるものが存在しえないことは一般常識であり、これは金日成・金正日時代から変わっていない。UFOネタのように、都市伝説のネタとして影武者云々を論じるのは勝手だが、インテリジェンス的な視点でいえば、世界中の北朝鮮ウォッチャー、そして北朝鮮本国が一笑に付すのが「金正恩影武者説」なのだ。