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金正恩、宴会部長を処刑「オレの電話に出なかった罪」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 韓国紙・東亜日報記者で脱北者出身のチュ・ソンハ氏が、自身のYouTubeチャンネルとブログで朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総政治局38部なる組織について語っている。

 北朝鮮にはこれと似た名称の、朝鮮労働党39号室という部署がある。こちらは金正恩総書記の独裁資金を管理するセクションだ。では、軍総政治局38部は何をやっている部署か。

 チュ氏によれば、38部は金正恩氏とそのファミリーが利用する「特閣」「招待所」と呼ばれる邸宅や別荘を管理しているという。特閣や招待所は、平壌市内とその周辺だけでも複数あり、全国にはいくつあるのかもわからない。規模で言うなら数十カ所はくだらないだろう。

 それだけの数があり、保安に最も気を使う施設である。軍が管理を担当するのも理解できる。チュ氏によれば、施設のスタッフも皆が軍人であり、「喜び組」で知られる朝鮮労働党の5課に選抜された美女たちも、軍に所属しているという。

 特閣や招待所では、頻繁にパーティーが開かれる。金正恩氏とファミリーだけが楽しむ日もあれば、側近たちを呼んでどんちゃん騒ぎをする日もある。お酌をするのはもちろん、5課出身の美女たちだ。

 そのような38部を仕切る部長はある意味、金正恩氏の「宴会部長」とも言えるポストだが、同氏から信頼を置かれる側近であることは間違いない。軍での階級は中将だという。しかし2014年4月のある日、そんな彼の身に悲劇が起きた。

 その日、金正恩氏は李雪主(リ・ソルチュ)夫人と2人で平壌市内の招待所に現れた。食事をしながら一杯やり、夜10時頃に帰宅したという。

 38部長はいつものようにスタッフを集め、料理と酒を振舞いながら労をねぎらった。独裁者の世話を焼くのはさぞや神経を使う仕事だろう。

 だがこの日、38部長はいささか飲み過ぎたのかもしれない。金正恩氏が何のためか深夜にかけてきた電話に、出られなかった。その夜のうちに連行された38部長は、そのまま処刑されてしまったという。

(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路

 招待所のスタッフは「次は自分かもしれない」と恐怖に震えたそうだが、しかし、そんなデタラメなことをやっていて金正恩氏は自分の身を守れるのだろうか。北朝鮮当局が金正恩氏を守るために最も気を使っているのは、彼の位置情報だろう。

 

 金正恩氏がいつ、どこにいるかが正確にわかれば、米韓などは朝鮮半島情勢が極度に緊張した際、独裁者を排除する選択肢を持つことになる。

 招待所スタッフの心の離反は、実は金正恩氏にとって、相当に大きなリスクになるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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