災害時「将軍様の肖像画より人命重視」金正恩氏が命令か
近年、毎年のように自然災害による深刻な被害を受けている北朝鮮だが、今年も例外とはならなかった。8月に入ってから降り出した大雨で、全国的に深刻な被害が出ていると、各地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
当局は、第3放送(有線ラジオ)と宣伝車を使い、さらなる雨雲の襲来に警戒せよ、首領様(金日成主席)と将軍様(金正日総書記)の肖像画を家庭用1号保衛箱に入れて避難せよなどとの宣伝を繰り返している。こんな非常時においても、人の命より肖像画を大切にするのが北朝鮮だ。
ところが、同じ大雨被害を受けた地域でも、咸鏡南道(ハムギョンナムド)では肖像画に関して、異なる指示が下されている。
現地では今月1日から大雨が降り、住宅と田畑が浸水、流出した。中でも平野地帯の広がる咸州(ハムジュ)、定平(チョンピョン)、利原(リウォン)の各郡での被害が甚大で、当局は家を失った住民を旅館や合宿所などに避難させた。住民らは「今年の農業は完全にだめになった」と落胆しているという。
多くの住民は、金日成主席、金正日総書記の肖像画を家から持ち出せないまま、避難を余儀なくされた。命より大切な扱いを受けるものだけあって、故意でなくとも汚損させれば処罰を覚悟しなければならない。しかし今回、当局は「人の命ほど大切なものはない」と態度を一変させ、政治的問題にはしない方針だ。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
地方の小役人なら、下手に扱うと自分に責任がなすりつけられかねないと恐れ、事情を問わずともかく処罰しがちなこの手の事案。金正恩総書記は、災害復旧を強力に支援せよと命令しているが、その中に「肖像画のことは大目に見てやれ」との命令が含まれていた可能性も考えられる。
今回の大雨の原因となったのは、温帯低気圧となり、ゆっくりとした速度で北上を続け、中国東北で停滞していた台風6号(インファ)。そこに加えて、南からは台風9号(ルピート)、10号(ミリネ)が北上するなど、悪条件が揃っている。
実際、北朝鮮の気象水文局は、国家非常災害委員会のイルクン(幹部)に「南朝鮮(韓国)に向かうはずだった大量の雨雲が、予想外にも進路を変えてわが国(北朝鮮)に押し寄せている」と伝え、今月上旬に各地に集中豪雨が降ると予想していた。
ところが、この話がねじれて伝わり、「南朝鮮のIT技術が発展し、遠隔操作で雲をわが国の方に押しやったようだ」という荒唐無稽な噂が流れているとのことだ。