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北朝鮮「性の狂宴」で処刑された11人の最高幹部

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 北朝鮮の金徳訓(キム・ドックン)内閣総理(朝鮮労働党政治局常務委員)が、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の水害復旧現場を視察したと、朝鮮中央通信が12日付で伝えた。

 北朝鮮では毎年のように水害が発生しており、昨年は金正恩総書記が被災地を訪れた。今回、金正恩氏は平壌で開かれた会議などには出席しているが、例年に比べると地方への視察は激減している。一方、金徳訓氏の視察報道は8月に入って3回目となるなど、同氏の視察報道が増えている背景が注目される。

 北朝鮮の内閣総理は実務官僚的なポストだ。金徳訓氏の実際の人となりはどうか分からないが、公式報道から伝わるのは実直な印象だ。これは同氏だけでなく、金正恩時代の最高幹部の多くに共通している。もちろん、実際はわからない。腐敗の深刻な北朝鮮の権力中枢にあっては、彼らの手も例外なく汚れているのかも知れない。

 それでも金正恩氏の父である故金正日総書記の時代と比べると、かなり「マシ」に思えるのは事実だ。金正日氏の性生活の乱れ方は良く知られているが、彼の側近たちも相当なものだった。

 中でも有名なのが、張成沢(チャン・ソンテク)氏と崔龍海(チェ・リョンヘ)氏だ。張氏は数多くの女性を愛人にしていたことで知られ、崔龍海氏は権力とカネに物を言わせた変態スキャンダルのエピソードまで伝わっている。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

 そして、彼らの取り巻き達もまた、似たようなものだった。

 東亜日報記者で脱北者でもあるチュ・ソンハ氏は自身のブログで、1995年に11人もの高位幹部が「性の狂宴」を摘発され処刑された事件について伝えている。

 処刑されたのは、朝鮮労働党江原道(カンウォンド)委員会の組織担当書記、チョン・ドンチョルをはじめとする地方幹部たちだ。

 東海岸にある江原道の元山(ウォンサン)は、海路で祖国訪問する在日朝鮮人の玄関口になってきたこともあり、複数の休養所(リゾート宿泊施設)がある。その中の「3閣」と呼ばれる施設が、張成沢・崔龍海氏とその取り巻き一派のアジトになっていたという。

 彼らはそこへ夜な夜な女性を連れ込み、一夜を共にしていた。女性には外貨や、朝鮮労働党への入党などの「褒美」が与えられた。

 しかしチュ・ソンハ氏は、「彼女らを売春婦と見るのは正しくない」と強調する。権力者からの要求を断ればどんな不利益を被るか分からず、彼女たちに選択肢はなかったからだ。実質的に、性暴力の被害者だったというわけだ。

 そしてあるとき、国家安全保衛部(秘密警察)を通じて彼らのやりたい放題が金正日氏に報告され、11人が処刑される運びとなった。

 だがそもそも、幹部たちの行状は金正日氏を見習ったものだ。彼の父(金正恩氏の祖父)である故金日成主席の時代には、幹部たちの性的スキャンダルは厳罰の対象だったと、チュ・ソンハ氏は説明する。それを「不問」にしたのが、誰よりも乱れた生活を送っていた金正日氏だった。

 ではなぜ、金正日氏は11人を処刑したのか。チュ・ソンハ氏は言及していないのだが、おそらくは張成沢、崔龍海といった幹部個人が派閥を形成することに対するけん制だったのではないか。張氏と崔氏の2人は処刑されなかったが、両人とも何度かの失脚を経験している。

 その後、張氏は遂に金正恩氏によって処刑されたが、崔氏はなおも健在だ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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