Yahoo!ニュース

「コロナ隔離中、給食横取りで放置死」北朝鮮軍の末期症状

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(写真:ロイター/アフロ)

 今に至るまで国内における新型コロナウイルスの感染者の発生を公式に認めていない北朝鮮だが、感染が疑われる患者の隔離には非常に熱心だ。

 背景には、医療・防疫体制が整っていないことから、国内で拡散した場合に対応できず、体制をも揺るがしかねないという危機感がある。しかしそれにしても、隔離病棟に入れられた人へのケアには無関心なようだ。

 そんな中、コロナ感染の疑いで隔離された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士2人が、誰からも看取られることなく、亡くなっていたことが判明したと、デイリーNKの平安北道(ピョンアンブクト)の軍内部情報筋が伝えた。

 事件が起きたのは、中国国境に近い平安北道の塩州(ヨムジュ)に駐屯する第8軍団だ。ここでは先月24日から27日まで、金正恩総書記が主催し「部隊事業全般を深刻に検討、総和(総括)しなければならない」というテーマで、第1次指揮官政治イルクン(幹部)講習会が行われた。

 その終了後、軍団内の疑診者病棟で、兵士2人が死亡しているのが発見された。その原因は、事実上の「ネグレクト」だ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 講習会で主要幹部が留守となり、全軍に1週間の特別警戒勤務週間が宣言され、彼らは放置され続けた。彼らには呼吸困難、発熱の症状が現れていたが、隔離期間中に施されたのは検温だけで、薬は一切与えられなかった。

「部隊に拡散するかもしれないと隔離したが、(彼らの容態は)どの指揮官の眼中にもなかった」(情報筋)

 そればかりか、隔離病棟で勤務する階級の上の兵士が、患者への給食を横取りしていたという。2人は高熱と咳に加え、飢えに苦しみながら誰にもケアされることなく、遺体となって発見された。

 講習会終了後、2人の死亡について認識した第8軍団は、大慌てで遺体を火葬し、かん口令を敷き、遺族にも知らせなかったという。報告を受けた国防省は、緊急事業との名目で、隔離病棟に隔離させられた兵士に対する大々的な検診を実施した。

 また、健康、給食など生活状態の改善について部隊の指揮官、政治イルクンに対応するよう指示を下した。つまり、中央では一切責任を取らず支援も行わず、現場で「自力更生せよ」ということだ。

 コロナ施設におけるネグレクトは、軍に限ったことではない。民間人を収容する施設でも、まともな治療、給食が行われず、元気になるために入った施設から生きて帰ってこられない人が続出している。

 当局の関心は体制の護持にあり、国民の生命、健康など眼中にないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事