昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」。当初は韓流や外国の情報に接することを取り締まるものだと知られていたが、その内容が知れるにつれ、実は非社会主義現象(社会主義にそぐわない風紀紊乱行為)を広く取り締まる法律であることがわかりつつある。

北朝鮮の最高裁にあたる中央裁判所のチョン判事も、そんな法律の犠牲になった一人だ。その容疑の内容は、他の国ではまず違法に問われないものだった。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、チョン判事は先月初めごろ、小説と思しき本を持ち歩き、ときどき読んでいたが、それを咎められたのだ。本には、外国の記事や写真をコピーしたものが差し込まれていたが、どうも最近出回っている地下出版物「情報誌」のようだ。当局は、これを「敵宣物」と見なし、彼を逮捕した。

そして先月28日、中央裁判所、中央検察所のイルクン(幹部)、大学の検察班の学生など400人が集まる中、中央裁判所の会館で公開裁判にかけられた。つまりは「見せしめ」である。

(参考記事:女子大生40人が犠牲…北朝鮮幹部「鬼畜行為」で見せしめ

裁判担当者は、「反動思想文化の流入と流布を徹底的に防ぎ、われわれの思想と文化を守るための思想の先頭に経つべき最高法機関の責任のある者が、仮面をかぶっていた」と断罪し、「最高裁判所の恥」とこき下ろした。

そして、今回の件が司法機関で起きた初めての反動思想文化排撃法の違反事例だとして、「判事に対する政治思想検討を強化し、彼らの頭の中にある悪性腫瘍を根こそぎ除去すべき」などと語った。「初めて」が強調されたこと、公開裁判が開かれたことは、見せしめで恐怖心を与え、再発を防ごうという北朝鮮の常套手段だ。

そして、チョン判事には解任の処分が下された。当局はまた、幹部事業(幹部の人事)の検討、家庭の革命化強化と、この事件のことは今月の司法機関の内部講演資料に掲載し、思想学習に利用するよう指示が下された。

ちなみにチョン判事が読んでいた情報誌だが、中国にいた対外経済省の外貨稼ぎ部門の幹部が持ち込んだことが確認され、10人が次々に逮捕された。また、中央裁判所の他の判事もこの本を読んだことがわかり、検閲(監査)の対象となっている。

海外の文物、情報を知りたいというのはごくごく自然な気持ちだが、それすらも許さないのが、今の北朝鮮の体制だ。しかし、いくら穴を塞いでも完全に塞ぐことはできず、情報はいくらでも入ってくるだろう。こんなことがいつまでも続けられるわけがない。