北朝鮮で1日、日本の国会にあたる最高人民会議第14期第15回全員会議が行われ、「麻薬犯罪防止法」が採択された。北朝鮮で言う麻薬には、覚せい剤の類も含まれる。

ここへ来て、こうした法が設けられたことは、かねて言われてきたとおり、同国内での違法薬物の乱用が、相当な水準に至っていることを示唆している。

しかし、北朝鮮の刑法には、以前から麻薬密輸及び取引罪(第208条)、違法アヘン栽培麻薬製造罪(第206条)などが設けられており、最高刑は死刑となっている。このような強力な法律がありながら、どうしてまた、新たな法が必要になったのだろうか。

そのヒントは、経済制裁に新型コロナ禍、自然災害の三重苦による、経済難の深刻化にある。北朝鮮国内のデイリーNK内部情報筋はかつて、次のように語っていた。

「市民の多くがやっているのに、いくら取り締まりをしたところで無駄だ。我々全員を処刑することも、刑務所送りにすることも出来はしない。幹部も出勤前にキメているというのに、どうして庶民はダメなのか。1回キメれば、生活の苦労も忘れ、気持ちがいい。こんな世知辛い世の中、覚せい剤なしでは生きていけない」

つまり覚せい剤は、生活苦から逃れるための手段になっている一面があるのだ。

ほかにも、医薬品の代わりとして誤用されたり、トンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層の「レジャー」になったりしている側面もある。

覚せい剤は北朝鮮国内の市場に大量に流通しており、売人はいたるところにいる。

彼らは、トンジュに狙いを定め、「夜(性生活)が強くなる」「痩せる」「頭がスッキリする」などと甘い言葉で誘い、覚せい剤を売りつける。

中毒にさせて、常連客にするという流れだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

しかしやはり、貧困と薬物乱用の関連性は大きい。たとえば、経済難が深刻化すれば生き延びるため売春に走る女性が増える。脱北者で東亜日報記者のチュ・ソンハ氏は、次のように語っている。

「売春する女性の多くは、麻薬に酔った状態で道端に立ちます。『オルム(氷)』と呼ばれる麻薬(覚せい剤)は1グラム50元(約750円)程度で買えます。これを10回に分けて吸うんです。こうすることで、夜通し通りに立つことができるようになるだけでなく、見知らぬ男性の前での恥ずかしさも抑えることができるというのです」

かねてから違法薬物の撲滅に取り組んできた金正恩総書記が、こうした実態を把握し、危機感を募らせているとしても、まったく不思議ではない。新たに制定された防止法は、国民が安易に薬物に走ることをけん制することに、目的があるのかもしれない。