深刻化する一方の北朝鮮の食糧難。それは、金正恩総書記も公式に認めるところだ。

金正恩氏は先月開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会の場で、「人民の食糧状況が緊張している」と述べ、食糧事情が逼迫していることを認めた。

その原因を挙げるなら、科学的な根拠を欠いたチュチェ(主体)農法、非効率で農民のモチベーションを上げられない集団農業、その解決法として一部で導入されたインセンティブ制度「分組管理制」「圃田担当制」の不振、コロナ鎖国がもたらした外貨不足による肥料や営農資材の輸入ストップなど、枚挙にいとまがない。いずれも国の間違った政策がもたらしたものだが、当局は、その責任を農民に押し付けることにしたようだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党咸鏡北道委員会が先月23日に道内の農村経営委員会、農場管理委員会、里(集落)の党委員会に対して、指示文を下した。その骨子は「農業を忌避し、卑しいものと考える住民と、農場の主人たる農場員まで農作業に不誠実な態度を示している」というものだ。

党委員会はまず、田畑の草取りが徹底されていないことを槍玉に挙げた。作物より雑草が生い茂っているのは、農場員と、農村支援で農作業を手伝う住民が一生懸命に行わず、農繁期なのに農作業をサボっているせいだと指摘した。

平安南道(ピョンアンナムド)の別の情報筋は先月、農耕用の牛が不足し、トウモロコシ畑が雑草だらけになっている現状を伝えたが、それに加え深刻な労働力不足が原因であるのに、咸鏡北道の党幹部は、それすらもまともに把握できていないことが、指示文の冒頭からバレてしまっている。

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また、農場員が食べるものがないと言って、食べ物探しに出かけたりして農作業をサボる問題、ワイロを払って農村支援の動員を免れる住民の問題などを叱責した。深刻な食糧不足を生き抜くために、職場を欠勤し遠くまで買い出しに出かける現象は各地で起きているが、それを批判する党委員会は、農民や住民に「飢えて死ね」と言っているのに等しい。

さらに、農業不振により配給が得られず、食べ物のことで苦労している住民の、農業に対する認識がなっていないとの分析が示された。

「国の穀物倉庫が空っぽになり、コメやトウモロコシ価格が天井知らずに高騰していても、農業に関心がないのは、住民の間に個人主義思想(エゴイズム)が根付いているからで、さらには党に対する忠誠心が不足しているから」(党委員会)

そして、党組織が住民に対して、農業は単純に食べ物を作ることにとどまらず、国の米びつを満たす重要な事業であると強調し、住民に対して愛国心を発揮せよと宣伝事業を強化すべきだと強調している。

宣伝すべき内容とは、「金正恩氏は食糧の問題が心配で眠れぬ夜を過ごしており、人民がその『ご心配』を軽くしてさしあげるべき」だということだ。

そこに加えて、農民階級は、労働階級に負けず劣らず、わが社会の重要な核心群衆であるという宣伝を強化し、さらに多くの青年が都市から農村に「嘆願」し、定住して、一生かけて党の穀物目標を達成するという方針を貫徹するために努力すべきだと強調した。

今回の党委員会の指示文に対する農民、住民の反応は伝えられていないが、「お上は何もわかっていない」というものになるだろう。

北朝鮮では「農民は社会的地位が低い」との認識が根強く、農村で一生働いても貧困から抜け出すのは困難だ。さらに農村は、過ちを犯した幹部の革命化(追放、島流し)処分の行き先とされていることから、当局自らが農村のイメージを悪化させている部分もある。1993年の映画「都会の娘が嫁に来る」は、農村も暮らしやすくなったというプロパガンダメッセージを込めたものだったが、それから30年近く経っても、農村のイメージは悪いままだ。

借金漬けで貧困から抜け出せない農民は、農場から逃げ出し、現金収入が得られる都市部などに向かっている。

機械化が遅れている北朝鮮の農場では、働き手が減ることは収穫の減少に直結する。その穴を埋めるべく、兵士の兵役を短縮した上で、帰宅させずに労働力として集団で送り込む「集団配置」を行ったり、都会の青年に農村行きを強制的に「嘆願」させて送り込んだりしているが、折を見て逃げ出すだろう。

そんな農村の疲弊の責任を国民になすりつけ、最低限の食糧すら保証せずに、「農村に行け」と宣伝に力を入れる。あまりの無策をせせら笑う庶民の顔が見えてくる。