協同農場を「占領」した北朝鮮軍の危機的状況

朝鮮人民軍の兵士たち(写真:ロイター/アフロ)

金網に囲まれた民家の裏庭と思しき空間で、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士と女性が、穀物に棒を振り下ろし、レーキのような農機具を使い、わらを袋詰めしている。その様子を、武装した別の兵士2人が見守っている――。

中朝国境の中国側から撮影されたと思われるこの映像が、動画共有サイトTikTokに投稿された。何気ない脱穀の風景に見えるが、ここは協同農場である。本来なら、兵士がいるはずのない場所だ。彼らは何をしているのだろうか。

両江道(リャンガンド)の朝鮮人民軍情報筋は、こう説明した。

「農場に例年より早く赴いた軍糧米引き受け担当者が、穀物の脱穀を1日12時間を行っている。軍官(将校)たちは、銃を背負った護送軍人を連れて農場に泊まり込み、定められた量を受け取るために、部隊同士でにらみ合いをしている」

慢性的な食糧不足に苦しめられている朝鮮人民軍に対して、当局は当該部隊が駐屯している地域の農場を割り当て、軍糧米を受け取るよう指示を出した。ところが、ひとつの農場に複数の部隊が割り当てられているようで、競争になっているのだ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

国際社会の制裁による営農資材、肥料の不足、相次ぐ台風被害で、作況が例年にも増して悪いと伝えられているが、部隊の今後の食糧事情のみならず、プライドもかかっているようで、「武装した軍人たちに、怒気がこもっているのを見るに、計画量から1粒たりとも漏らさない」(情報筋)という意志が感じ取れるほどだという。

兵士たちは、農場に24時間つきっきりで、農民が脱穀を終えた穀物を次々と運び出すだけにとどまらず、大豆の脱穀を自ら行っている。

両江道で数少ない稲作が可能な甲山(カプサン)の農場にも、兵士たちが「ハエのようにたかり」(情報筋)、脱穀場に居座って作業に夢中になっている。

朝鮮人民軍の後方総局の糧食局は、軍糧米の担当者に、10月から11月の冬季訓練準備のための期間に、軍糧米の確保に総力で努めよとプレッシャーをかけている。

農民の間からは嘆きの声が漏れ聞こえる。

「少しでも多く脱穀したのなら、人民の米びつを満たすべきなのに、少しでも多く奪い去ろうと血眼になっている」

「農作業はわれわれ農民がやるのに、秋になると突然やってきて、勝手に脱穀して持っていってしまう、小作農にコメよこせと凄んでいた地主と何が違うのか」

北朝鮮の農村では、春にカネ、または穀物を借りて秋の収穫後に返済するヤミ金が横行している。収穫物を奪い取られれば、返済に行き詰まり、にっちもさっちもいかなくなる。農民は、兵士にコメを奪われまいとあの手この手で抵抗を試みるものだったが、最初から銃を持って乗り込んでこられては、為す術もないだろう。