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金正恩の命令違反…幹部一家「船上パーティー」で処刑か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

中国遼寧省の丹東市は、鴨緑江越しに北朝鮮を眺められるとして内外から多くの観光客が訪れる。中でも人気を集めているのは、北朝鮮の目と鼻の先ま接近する遊覧船だ。国境は川の真ん中に引かれているのではなく、共同管理という位置づけなので、相手国に接岸しない限りは航行が自由なのだ。

遊覧船が人気なのは北朝鮮側も同じだ。ときには、乗客が鈴なりになっている遊覧船を見かけることもあったが、今では運航できなくなっている。北朝鮮は今年1月末から、国境を閉鎖し、防疫を停止すると同時に、船舶の出港を禁止する措置を取ったからだ。そんな規則を破った新義州(シニジュ)税関の幹部が逮捕され、家族とともに処刑の危機に追いやられている。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

金正恩党委員長が主導する防疫措置を軽視したことで、最高指導者の権威に挑戦したものとみなされているためだ。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、新義州税関の責任イルクン(幹部)が今月7日、家族の行事のために客を招待し、船に乗せた容疑で逮捕されたと伝えた。

行事の具体的な内容は不明だが、実際に船を目撃した中国の情報筋は、船の2階には数十人が宴会を繰り広げ、1階にも多くの人がいたと証言した。遊覧船は景色を見るために、中国にできるだけ近づくのが一般的だが、この船は新義州側に近い所を運航していたとのことだ。遊覧船は、高級幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)の結婚式、家族の行事などで使われてきた。

道の朝鮮労働党委員会は、「国家的防疫措置についての党の思想と方針に背いた深刻な犯罪行為」として、中央党(朝鮮労働党中央委員会)組織指導部に報告した。それを受けて中央党は、税関を管理、監督する国家保衛省(秘密警察)と合同で、国境沿線地域合同検閲調査団を立ち上げ、調査に乗り出した。

調査団は「人民のために服務すべき幹部が、党の配慮と職務を利用して特権を享受した」として厳罰を下す方針を示している。

調査団は今回の事案を、「党の唯一的領導体系確立の10大原則」への違反であると見ている。これは、最高指導者の権威を絶対化するための規範であり、北朝鮮では憲法や党綱領より上位に位置付けられている。

それだけではない。調査団は「宗派(分派)」という言葉を使い、「その芽を断固として叩き潰すべき」としている。北朝鮮において宗派という言葉は、金正恩党委員長と朝鮮労働党に歯向かうことを意味する極めて深刻なもので、処刑を含めた大々的な粛清に発展する可能性も考えられる。

金正恩氏は2日、党中央委員会政治局拡大会議に出席し、非常防疫事業の強化を訴えたが、そのわずか5日後の不祥事だけあって、見せしめとしての厳罰が予想される。

税関の責任イルクンは調査に対して「レストランを借りようとしたが、新型コロナウイルスで狭い空間で行事をすると問題になるかもしれないと考え、船を利用した」と釈明しているとのことだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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