脱北者の42%「人権という言葉すら聞いたことなかった」

北朝鮮の女性兵士(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮で暮らした半数近くの人が「人権」という言葉を聞いたすらないことが、脱北者を対象とした実態調査で明らかになった。

韓国の大韓弁護士協会は、2006年から隔年で北朝鮮人権白書を発行している。2020年版(先月発表)の編纂にあたっては、北朝鮮における人権侵害の調査を行っている韓国のNGO、北韓人権情報センターに依頼し、2017年1月1日以降に北朝鮮から脱北した50人を対象に意識調査を行った。

まず、北朝鮮における人権教育の実態についての質問に対して、回答者の42%が「北朝鮮で『人権』という言葉を全く聞いたことがない」と答え、62%が「人権に関する教育を聞いたことがない」と答えた。「北朝鮮で法律に関する教育を受けたことがあるか」という問いには「ない」と答えた人が90%に達した。

回答者が受けた人権教育の具体例を挙げると、ある人は「2017年3月に農場の作業班の宣伝室で、法務解説員が来て「非法越境(脱北)すればこんなに悲惨に死ぬ、わが国の人権は最高だ」などと言った内容の教育を受けたと証言した。

次に、金正恩氏(朝鮮労働党委員長)が政権の座について以降、人権状況がよくなったかという質問には、回答者の68%が「いいえ」と答えている。その理由としては「経済悪化」「監視の強化」がそれぞれ31.1%、「支配階層の公開処刑」13.3%、「(警察官など)機関員の横暴、ゆすりたかり」の11.1%の順だった。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

この調査では「信訴」制度についても質問している。

これは不正行為の内部告発制度のようなもので、国家機関などから理不尽な目に遭わされた場合の数少ない救済措置の一つだ。住民行政法、信訴請願法に手続きが定められているが、これを「公民の基本的権利として認識しているか」という問いに、「している」と答えたのは回答者の60%にとどまった。また、実際に信訴を行った経験のある人は全体の28%に過ぎなかった。

信訴は問題の解決、関係者の処罰につながる可能性がある一方で、もみ消された上で逆に被害者がひどい目に遭わされるケースもある。その利用をためらわせていると思われるが、それ以前に制度そのものを知らない人も大勢いることがわかった。

北朝鮮で受けた人権侵害の中で最も辛いと感じたことを聞く問いには「意志表現の自由の抑圧」(44%)、「移動の自由がない」(24%)、「政治犯収容所に収容されるかもしれない恐怖」(20%)、以下「食糧不足」、「恣意的な拘禁」、「司法手続きの執行過程での人権侵害」の順だった。

国連が毎年、北朝鮮人権決議を採択していることについては54%が「知っている」と答えたが、そのような国際社会の動きが人権改善に役立つという問いに「そう思う」と答えた人は24%にとどまった。一方、北朝鮮当局の「韓国や米国や北朝鮮に不当な人権攻勢を展開しているというプロパガンダを聞いたことがある」と答えた人も60%で、当局の思想教育、宣伝活動が完全には行き届いていない実態が明らかになった。

開城(ケソン)工業団地、金剛山(クムガンサン)観光などの「南北交流事業が北朝鮮国民の人権改善に役立つか」という問いに「とても役立つ」「若干役立つ」と答えた人は56%にのぼったが、食糧支援などの人道支援については34%にとどまった。ただ、具体的な理由を問うと、前者、後者ともに「政権を助けるだけ」「国民のところには届かない」との否定的な意見が多かった。