北朝鮮政府がサブスク強制する動画配信サービス

北朝鮮のアナウンサー(朝鮮中央テレビ)

新型コロナウイルスが猛威を振るった今年、インターネットで視聴する動画配信サービスの加入者が増えていると伝えられている。それらをまとめて管理するアップル社のApple TV、AmazonのFire TVも人気だが、利用するのに必要なのはセットトップボックスと呼ばれる機械だ。

同様のサービスが、北朝鮮にも存在する。

2016年8月16日の国営朝鮮中央テレビは、マンバン情報技術普及所が開発した「ネットテレビ多媒体閲覧機・マンバン」という動画配信サービスを紹介した。

北朝鮮国内だけで使えるイントラネットに繋がっている公共の場所や、自宅にマンバンのセットトップボックスを設置すると、朝鮮中央テレビなどの国営テレビ4局、労働新聞、朝鮮中央放送などが、リアルタイム、またはVOD(ビデオ・オン・デマンド)で見られるというものだ。

平安北道(ピョンアンブクト)情報通信局の職員は、朝鮮中央テレビのインタビューで、新義州(シニジュ)市内だけでユーザーは数百人いて、日々増えていると答えているが、実際の普及率は不明だ。

北朝鮮政府お墨付きの最新技術だけあって、チャンネルには革命活動報道、回顧録「世紀と共に」、チュチェ(主体)思想学習などもあるが、中国のデイリーNK情報筋は、このサービスが、中国に駐在する北朝鮮の貿易関係者の思想教育に利用されている現状を伝えた。

中国駐在の北朝鮮大使館と領事館は、この「マンバン」を1台2000元(約3万600円)で販売している。対象は、外交官、各貿易会社の職員だが、買わない選択肢はなく、事実上の押し売りだ。もし買わないなどと言った日には、思想的に問題があるとされ、どんな目に遭わされるかわからない。

セットトップボックスの押し売りをする第一の目的は資金稼ぎだ。大使館、領事館は本来国の予算で運営されるものだが、北朝鮮の場合は逆に、大使館や領事館が様々な商売で外貨を稼ぎ、国に上納する。厳しいノルマを達成するために、違法なものに手を出して摘発される北朝鮮外交官が相次いでいる。

上納金を稼ぐためだろうか、生活費の足しにするためだろうか、おかずやモヤシを売っている領事館職員の夫人たちが、ロシア・ウラジオストクの市場で目撃されている。そんな状況で、2000元もするセットトップボックスを買わされてはたまったものではないだろう。

大枚をはたいてセットトップボックスを変えば、それで済まされるわけではない。ちゃんと見ているかもチェックされている。

当局は「マンバンを総和(総括)に積極的に使え」との指示を下し、大使館、領事館では購入者に電話をかけて、どのような放送を見てどのような内容だったかを確認する形で、きちんと見ているかを調べる。

なぜ思想教育に動画配信サービスが使われるようになったのか。情報筋はその背景を次のように説明している。

「(北朝鮮当局は)コロナのせいで任期が満了になっても帰国できない人たちの思想と忠誠心が落ちたと判断した」

海外に駐在する北朝鮮の外交官、貿易会社の職員、その家族は多かれ少なかれ駐在国や海外のメディアに接することになる。その気になれば、ご禁制の韓国のテレビ放送も見られる。当局は、あの手この手で思想統制を図ろうとしてきたが、どうも効果があがらない。それで、最新技術を使った統制に乗り出したというわけだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

セットトップボックスの押し売りは、思想教育も行って儲けも出せる、一石二鳥というわけなのだろう。また、今年4月に開催された最高人民会議第14期第3回会議で採択されたオンライン教育を推し進めるための遠隔教育法の趣旨にも合っている。

しかし、北朝鮮国内ですら韓流が溢れている現状で、こんな思想教育をしたところで効果は期待できないだろう。